監督:ダニー・ボイル、原作:アーロン・リー・ラルストン『奇跡の6日間』(Between a Rock and a Hard Place)、脚本:ダニー・ボイル、サイモン・ボーファイ、撮影:アンソニー・ドッド・マントル、エンリケ・シャディアック、編集:ジョン・ハリス、音楽:A・R・ラフマーン、主演:ジェームズ・フランコ、2010年、94分、原題:127 Hours
上映時間 94 分。だらだらとした2時間超えの映画より締まっている。一人舞台の映画だから、それが限度だったかもしれないが、内容に比例する長さとして過不足はない。
アーロン(ジェームズ・フランコ)は、2003年4月25日(金)夜、てきぱきと支度をして、キャニオニングを楽しむため、ブルー・ジョン・キャニオンに、一人向かう。
目的地ビッグドロップへ向かう途中、道に迷った女の子二人組を案内し、洞窟から真下の湖にダイブするなど、楽しいひとときを過ごす。
彼女らと別れ、さらにしばらく岩の間を進むうち、誤って岩の隙間に落ちてしまい、右腕の先を落ちてきた岩に挟まれ、身動きがとれなくなってしまう。
助けを呼ぶ術(すべ)もなく、誰も通りかかるところでもなく、アーロンの生死をかけた孤独な闘いが始まる。・・・・・・
「一人の人間」が「同じ場所にしかいない」という設定による危険性は充分織り込み済みで、その危険性は回避されている。
当然、過去の思い出や幻想や夢を挿入させるのが常套手段だが、この映画のいいところは、その回想や幻想にしつこさがない点だ。回想や幻想のシーンに時間を割きすぎれば、過去や幻に浸ることになるからで、アーロンは最後まで脱出を諦めないストーリーからして、そうあるべきだったわけだ。
映像にもさまざまな工夫がなされている。アーロンが持参しているキャノンのデジタルビデオカメラ自体が映像としても使われ、時間が経つにつれ頻度の高くなるアーロンの顔や顔の一部の描写とともに、バランスよく提供されている。
撮影の方法もバラエティーに富んでいて、空撮・遠景からクローズアップ、さまざまなアングルなどがあるが、奇抜な撮りかたはない。『トレインスポッティング』(1996年)以来観られるような、グラスの底から、そこに注がれる液体を撮るような遊び心は、ここでも遺憾なく発揮されているし、二人の女の子を案内して洞窟下の湖へダイブするシーンでは、飛び込むようすを水の下から撮ったり、豪雨のシーン同様、水中撮影も盛り込まれた。『トレインスポッティング』で、便器の中を覗くと、その奥が海中となって広がっているシーンを思い出させる。
何より、ジェームズ・フランコという俳優の起用が正解だ。目の演技はかなり究極のものを求められる。また、いろいろな約束を自分の判断で勝手に破るような、少々わがままなキャラであり、キャニオンに一人で出かける向こう見ずな一面もあり、そして笑顔が魅力的でなければならない。一人芝居の映画なら、主役は映りっぱなしであり、キャスティングは一層慎重でなければならない。
全体に、回想、幻想を控えめにし、アーロンのもがく現実を、右手の切断に至るまでを含め、正直に正面からとらえた点で、映画制作への真摯さがあり、誠実なつくりとなっていることに共感を覚える。
「この一件をきっかけに、過去の自分を反省し、これから生きる自分の糧(かて)を得た、というのには、いまひとつ描写力やストーリーが弱かった」として、低評価している向きがあるようだが、みずから前提してその前提にそぐわないから評価できない、というのは誤りだ。頭で観る人は『告白』(2010年)でも観て感動しているがいい。
始まったときに、何でこの大きさのスクリーンかと思ったのだが、メインのシーンが狭いところとなるので、なるほどと理解した。
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