監督・脚本:柳町光男、撮影:藤澤順一、編集:吉田博、音楽:清水靖晃、主演:柏原収史、前田愛、吉川ひなの、本田博太郎、2005年、115分。
わりとよく観る映画。なんということもないが、また観てしまう。
ラストを除き、ほとんどが立教大学構内と池袋西口でのロケ。
直樹(柏原収史)やキヨコ(前田愛)たち映画部の学生が、映画監督でもあった教授(本田博太郎)の指導のもと、学生だけで映画を作ることになる。
題名は「タイクツな殺人者」で、家庭の事情で降りた主役の代わりを探すところから始まる。
いろいろな学生間や、教授や学生のエピソード、直樹と直樹を慕うユカリ(吉川ひなの)のやりとりをはさみながら映画は進行していき、ラストのロケシーンで終わる。
この作品、カメラが好きなのだ。ややもすると実験映像のようであるが、基本に忠実で、横移動、クレーン、切り返し、長回しなどがふんだんにあっておもしろい。
冒頭の長回しは『黒い罠』をまねたと思われる。
どちらかといえば会話劇に近いので、セリフがおもしろく組み合わされている。
セリフにも出てくるが、誰が観ても『ベニスに死す』のまねごとが使われる。オマージュだと言われるが、単純に制作上の遊び心だろう。
本田博太郎、黒木メイサ、田口トモロヲ、中泉英雄が個性的な役を演じるが、吉川ひなののピンぼけしたサイコ風な愛情表現もよい。
笑えるシーンを織り混ぜながらも、全編にわたり、セリフやムード、音楽はサスペンスタッチであり、日常風景と映画の風景を、うまく隣り合わせに描いている。
映画づくりを描いた映画でもあり、エピソードでつなげていく手法に抵抗がないならば、親しみをもてるだろう。
それだけに、セリフ、俳優の動き、表情は、多分にわざとらしい演出がされるが、この映画には意図的な演出が必要なのであって、わざとらしい演出をこそ楽しむ映画だ。
そもそも映画をつくるというのは、演出的要素で埋めつくすということだろう。ならば、どんな映画にも、セリフ、セリフまわし、カメラワーク、照明、演技、発声、間合い、空間処理、…いたるところに演出がなされるのは当たりまえなのだ。
大恋愛も犯罪も絶叫もない。ひたすら学生目線で日常世界を描いている。日常世界で映画の世界を描いている。ありそうで意外になかなかない映画でおもしろい。だから何回も観てしまう。
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