監督・脚本:新藤兼人、原作:徳田秋声『縮図』、撮影:伊藤武夫、美術:丸茂孝、照明:田畑正一、録音:長岡憲治、音楽:伊福部昭、主演:乙羽信子、1953年、131分、白黒。
徳田秋声『縮図』のうち、銀子の半生を中心に描いた作品。
東京・佃島の長屋で、銀子(乙羽信子)の父(宇野重吉)は靴の修理をして食っているが、貧乏のため、長女である銀子は、芸者に出される。
初めは若さゆえの溌剌とした芸者生活であったが、置き屋の主人に言い寄られるのを拒み、次には新潟・高田の置き屋に回される。・・・・・・
兄弟も多く貧乏な所帯では、長男が奉公に出、長女は芸者に売られるというのは、悲しいかな日本の歴史の裏面に必ず見られる現実だ。
芸者であるからには、借金のため置き屋からは自由になれず、恋人ができても由緒正しい家柄の男子とは結婚できない。
おまけに肺結核などの病いに冒され、それでも家族のために、死ぬわけにはいかない。
最初の置き屋の旦那を袖にして、不愉快な思いをした銀子が実家に戻る。が、両親を心配させまいと何も言わずに帰る。
初めはそんな純情さの残る小娘芸者は、経験を積むにつれ、いっぱしの口をきく姉御芸者になっていく。その変化を、乙羽信子がみごとに演じている。
東京の置き屋に戻った銀子に、妹が会いにくる。川端の屋台で腹一杯に焼き鳥を食べると、銀子が小遣いを渡す。
妹は帰りかけて引き返し、焼き鳥、とってもおいしかったわ、と言い、暗く何もない道を帰っていく。
この妹は、結核で死んでしまうが、やはり肺炎で家に戻ってきた銀子が、声をかけ、姉妹で話すシーンはすばらしい。
妹が息を引き取ると、銀子は言う、あんたは死んでよかった…芸者にならずに済んだんだもの…。
どん底生活を味わいながら、それでもシーンが変わると、銀子はよそゆきの格好で、また置き屋へと戻っていく。
かつて幾多の日本の女は、社会の底辺で、苦界に身を沈めるというこんな冒涜を繰り返さざるをえなかった。銀子の境遇は、まさしく、歴史と現実にある貧しかった日本の女たちの生活の縮図だ。
その後有名になる俳優の顔があちらこちらに見え、古い映画だということをあらためて自覚させられる。すでに活躍している俳優が総出演のような豪華なキャスティングだ。
銀子の母に北林谷栄、東京に戻ってからの置き屋の遣り手に山田五十鈴、この二人の演技はやはり傑出している。
カメラは動きが荒いところもあるにせよ、それだけに驚くほどによく動いている。しばしば、室内や人物を、なめるように撮っている。
エピソードでつなぐストーリーはややもすると退屈になりがちだが、この映画はそうはならない。多様なカメラ撮りで、映像が銀子の心境を主張できている。
高田で、銀子を愛してると言った大地主の息子が、銀子が松島への仕事から帰る三日後には、名門のお嬢さんと婚約していた。
男に裏切られまいと用心に用心してからだをまかせたにもかかわらず、またみごとに裏切られる。
挙式のもようをはるか遠くに見ながら、銀子は深い雪の中を歩き、雪の中に泣き崩れる。印象的なシーンだ。
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