監督:三村晴彦、脚本:三村晴彦、加藤泰、製作:野村芳太郎、宮島秀司、撮影:羽方義昌、編集:鶴田益一、音楽:菅野光亮、主演:渡瀬恒彦、田中裕子、平幹二朗、伊藤洋一、1983年、99分。
松竹・霧プロ提携作品、『疑惑』の翌年の作品。
浜松の印刷所に、元刑事という男(渡瀬恒彦)が経営者(平幹二郎)を訪ねてくる。
依頼された印刷は、40年前に担当した事件の捜査資料だった。
昭和15年6月29日午前10時ころ、伊豆・下田署に殺人事件の一報が入る。捜索の結果、天城峠で、土工(人足)の惨殺死体が見つかる。
当時14歳の少年(伊藤洋一)であったこの経営者は、ちょうどその頃、下田から修善寺に向け、山道を一人で歩いている途中、美しい女ハナ(田中裕子)と出会っていた。・・・・・・
蒸し暑いが深緑の峠道や、付近を流れる川や滝の映像が美しい。
旅館の酌婦であるハナを演じる田中裕子の妖艶な立ち居ふるまいは官能的であり、少年の純潔と対峙している。
少年は家庭に嫌気がさし家出しており、天城越えの途中で行商らとも出会い、やがてハナと出会い、いままで未知の世界、特に官能の世界に一歩を踏み入れる。
少年を演じる伊藤洋一の容姿や表情が、ストーリーの内容にぴたりと合致している。
何といっても映像上の圧巻は、土工殺しの無実の罪を着せられたハナが、雨のなか、車に連行されるとき、そこへ来た少年と見つめあうシーンだ。
滝を向こうに、橋を渡る二人のシーンとともに、みごとな映像美だ。
そしてまた、少年の足の股の擦れをハナが手拭いで手当てするシーンも忘れられない。少年が官能の世界に立ち入る瞬間だ。かなり長いシーンになっている。
脇の北林谷栄、樹木希林、石橋蓮司、柄本明、吉行和子、山谷初男らの演技も見逃せない。こうした脇役陣に固められ、毒婦と純情な少年が主役の物語が成功するのである。
ただ、ラスト、エンドロールのあと、現代を意識してか、何台かのバイクが天城隧道に入っていくが、これはいらない。
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