監督:マイケル・カーティス、脚本:ハワード・コッチ、ジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・G・エプスタイン、撮影:アーサー・エディソン、編集:オーウェン・マークス、音楽:マックス・スタイナー、主演:ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン、1942年、102分、モノクロ、原題:Casablanca
制作当時の1941年12月、親ドイツのヴィシー政権下にあったフランス領モロッコのカサブランカを舞台とした恋物語。戦時下の独仏の対立の時代を背景としていて、厚みをもつ構成になっている。
導入からリック(ハンフリー・ボガート)の店内までがサラリと描かれ、カサブランカでビザを待つ人々の心境をナレーションで語る。
有名になったセリフのあれこれのうち「君の瞳に乾杯 Here's looking at you, kid.」は有名で、みごとな邦訳だ。ほかに、イルザがリックを訪ねてきてパリでのことを洗いざらい話したあと、「私の代わりに考えて」とリックに言う、この言葉を言われる男リックは、三人にとって、そしてイルザのために、最良の決断をすることになる。
カメラワークには特別なものはないが、白黒ゆえの光と影のコントラストを活かしたシーンが多いことに、あらためて気付かされる。バーグマンの涙や、瞳の輝きにも活かされる。
カットや編集もよく、カメラが動くシーンはあまりなく、カットからカットへ次々にシーンが畳みかけてくるので、話のテンポに平行した映像のテンポにも酔うことになる。バストショットとアップが多いのも、恋物語には付き物だ。
光の演出以外にも、さまざまな小憎らしい演出が効いていて、短いシーンでも映像の遊びが散見されます。
待ち合わせした駅で、姿を表さないイルザからの手紙は、雨のしずくでそのインクが、イルザの涙かのように流れる。
その直前、パリ陥落の日、抱擁しあうイルザの手が、シャンペンの注がれたグラスを倒す。
ラストシーン近くの飛行場で、二人の乗る飛行機のプロペラがいよいよ回ったとき、三人のそれぞれの表情が次々に映される。その表情、カットの数、カットの長さは的確で、ドラマの土壇場の緊迫感を盛り上げる。
随所に、おしゃれなムードとユーモアさえ折り込みながら、ややサスペンスタッチにストーリーが進むので、102分の映画は一気に観ることができる。
黒人のサムが弾く「ノック・オン・ウッド Knock on Wood 」や「時の流れるままに As Time Goes By 」なども、シーンに見合ってムードを高める。
ルノー署長演じるクロード・レインズも絶妙な味を出している。ルノーはその名のとおりフランス人であり、内心はドイツ人将校らに思うところもあり、将校とのテーブルにいるときは、やたらと<第三帝国>という表現を使い、将校から皮肉を言われる場面もあり、ラストでは、ドイツの傀儡である本国フランスのヴィシー政権の名の入ったボトルを蹴飛ばしている。
しかし、何と言っても、この映画の見どころは、リックという男の生きざまだろう。それはイルザをめぐる思い以外にも、実に丁寧に描かれている。
リックが初めて登場するシーン。いきなり現さず、手先を映し、その手がタバコを取って口にくわえると、そこにリックの顔が映る。本当に憎たらしくなるような演出だ。ボガートはこの映画あたりから、タバコの咥えかた、タバコの持ち方でも人気を得て、リックというかっこいい男は、タバコの吸い方・持ち方とともに、男の憧れの的になった。
短いシーンでもマイケル・カーティス監督はおろそかにしていない。ラスト近く、飛行場で、遠くに駐機している飛行機がある。セットの広さの関係で、大型飛行機を持ち込めなかった監督は、小人のエキストラに整備士の服を着させ、その飛行機のそばで作業させた。遠くの飛行機を大きく見せるためだ。出来上がった映画ではほんの一瞬しか映らないシーンだ。
リックのカフェには、いろいろな人種がいる。フランス人、ドイツの軍人以外にも、バーテンダーの一人はロシア人、ブルガリア人のカップルなど。
しかし多くはフランス人。リックにフラれるイヴォンヌも、ギターを奏でる女性もフランス人。だから、ドイツ国歌に対してラズロが指揮してフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を歌うとき、やはりイヴォンヌも涙を流す。
もし、一つだけ、あなたの観た恋の名作を挙げてください、と言われたら、間違いなく『カサブランカ』と答えるだろう。
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