映画 『THE WAVE ウェイヴ』

監督:デニス・ガンゼル、原作:モートン・ルー、脚本デニス・ガンゼル、ペーター・トアバルト、主演:ユルゲン・フォーゲル、2008年、108分、ドイツ映画、原題:Die Welle(波)、PG12。


高校教師ベンガー(ユルゲン・フォーゲル)は、校長から一週間の選択実習講義で、「独裁政治」をテーマに指導するよう依頼される。

テーマがテーマだけに、姿勢の悪い生徒たちに、身をもって独裁をわからせるため、立たせて深呼吸をさせたり、自分に敬称をつけさせたりしながら、独裁の本質について授業を進めていく。三日目からはこのクラスの統一感を出すために、全員が白いシャツを着てくることになる。

もともと生徒たちに人気のある教師であったため、日を追うごとに、生徒たちもベンガーの個性に憧れ、ベンガーに敬礼したり、みずから挨拶の手振りを考え出したり、クラスのロゴを考え出したりし、ついにクラスは 'Die Welle' (=the Wave)という名称までもつようになり、あたかもベンガーを独裁者とする集団が出来上がってしまったかのようであった。・・・・・・


実におもしろい映画ですねえ。去年、新作で並んでいたんだけど、ある先入観から観るのを後回しにしてきた。ある先入観とは、ヒトラー・ユーゲント養成もどきの映画かと思ったからだ。しかし、それは誤解だった。

スポーツに芝居に恋愛に、純情に生きる高校生たちが、いかに容易に、信頼する教師からの洗脳・指導にのりやすいか、また、のめりこみやすいかが、わかりやすく描かれていく。実際、端緒はこうして、古今東西の独裁体制も築かれていったはずと考えると、テーマの選択として、なかなか類似の映画は現れないだろうし、ドイツ映画であることも興味深い。


生徒の中には、さまざまな者がいるのも確かで、一日ごとの授業とは別に、それに多かれ少なかれ影響を受けながら、彼らの日常やクラスメートとの人間関係も、少しずつ変化していく。

初めの三日ほどは、独裁指導がよいほうに作用している描写もあり、クラスメート同士の協力や真剣みを増すための特効薬のはたらきをしているのも事実だ。

しかしやがて、独裁的団結の下に、スタンドプレーに走る者や、陶酔のうちに熱狂的排他性を帯びてくる生徒が現れてくる。

何人かの生徒に絞って、ベンガーや仲間との関係を描写したのもよかった。

そして、たしかにある意味、ショッキングなラストへと向かって、映画自体も突き進んでいく。


実に興味深い作品。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。