映画 『モロッコ』

監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ、原作:ベノ・ヴィグニー、脚本:ジュールス・ファースマン、撮影:リー・ガームス、編集:サム・ウィンストン、音楽:カール・ハヨス、主演:マレーネ・ディートリヒ、ゲイリー・クーパー、1930年、92分、アメリカ映画、トーキー、モノクロ、原題:MOROCCO


ゲイリー・クーパー、マレーネ・ディートリッヒともに29歳のときの作品。


北アフリカ仏領モロッコの街に、アメリカからの外人部隊がやってくる。その一員であるトム(ゲイリー・クーパー)は、酒場の歌姫アミー(マレーネ・ディートリッヒ)に夢中になる。

アミーは船でモロッコに着いたばかりで、同じ船に乗ってきた富豪のラ・ペシェール(アドルフ・マンジュー)も、彼女を狙い、やがて婚約にまでかこつけるのだが、・・・・・・


乾いた暑い国、エキゾチックなムード、ディートリッヒの退廃的な容姿、ゲイリー・クーパーの精悍な色男ぶり、これらが恋物語を、一層ジリジリと熱くする。


外人部隊の楽隊の演奏とアミーの歌声以外に、ほとんど音楽が入らず、しゃれた無駄のない会話、大胆な横移動のカメラなど、故意に近い個性的な演出が見所だ(演出というのはすべて故意だけど)。

アミーの歌う酒場のステージのつくりはおもしろい。楽団が上にいて、将校たちの席は段々に並ぶ。トムら傭兵は下の席だ。


冒頭、船で着いたばかりのアミーがバッグを落とすと、それを拾うのはラ・ペシェールだ。そのあとの、波の音、汽笛の音、霧の中に佇むディートリッヒが美しい。

キザでかっこいいが、ストレートに物を言えないトム、トムに惹かれながらもラ・ペシェールにくどかれるアミー。映画としてはありふれた素材でありながら、ディートリッヒの視線、軽妙な会話、二人の立ち位置、タバコ、酒、指の挨拶などで、いろいろな恋のシーンを見せてくれる。


トムがテーブルに彫った文字で、アミーの心は決まった。

トムのいる部隊のあとから、女たちが荷物を担ぎ家畜を連れて、砂漠の中へと、部隊の男たちの後を追う。

それを見ていたアミーは、ラ・ペシェールにキスをするも、女たちに混じって、部隊のあとを追う。

砂漠に靴を脱ぎ捨てて歩いていくシーン、歩き方がいい。そのまま女たちの姿が、画面右上に消えていくラストシーンが心憎い。ふつうなら、こんなフレームにはしないだろうに。


不良っぽくかっこいい恋男・恋女を描いた先駆的作品。

最高の映画!

“One way ticket. Never Return.”



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。