映画 『望郷』

監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ、原作:アシェルベ(アンリ・ラ・バルト)、脚本:アシェルベ探偵(アンリ・ラ・バルト)、ジュリアン・デュヴィヴィエ、ジャック・コンスタン(脚色)、アンリ・ジャンソン(台詞)、撮影:マルク・フォサール、ジュール・クルーガー、編集:マルグリット・ボージェ、音楽:ヴァンサン・スコット、モハメド・イグルブーシャン、主演:ジャン・ギャバン、ミレーユ・バラン、1937年(昭和12年)、94分、モノクロ、フランス映画、原題:Pepe Le Moko


稀代の宝石泥棒ぺぺ・ル・モコ(ジャン・ギャバン)は、パリから逃げてきて、今はアルジェの港近くの通称カスバと呼ばれる丘の上の街に住みついていた。

カスバは入りくんだ迷路のような街で、警察は逮捕できず手をこまねいていた。悪行にもかかわらず、ぺぺはカスバで人気者であった。

やがてぺぺは、カスバに旅行客として訪れたギャビー(ミレーユ・バラン)と出会い、恋に落ちる。

ぺぺと毎日のように会っている刑事スリマンは、ぺぺ逮捕に一計を案じる。ギャビーをエサに、ペペを街に誘い出そうとする。・・・・・・


街に降りれば警察に捕まる。だが、ある日、ギャビーを追って、ついに街に出る。

正装をしてまっしぐらに街に降りるなか、ぺぺの背景が幻想的に変わる。

有名なラストシーンは観てのお楽しみだが、哀愁漂うこんな幕切れもあったのだ。


ギャビーとの会話で、パリの思い出がよみがえる。これが最後の出会いになるとは二人とも知り得ぬ別れに、ぺぺはギャビーの耳元にキスをする。

「いい香りだ…」

「メトロの?…」

ぺぺにとっては、パリの地下鉄までもが懐かしい。


仲間の妻タニアが、若いころの自分の歌声をレコードで聴く。パリへの郷愁がまさるシーンだ。邦題は意味をつかんでつけられている。


カスバでは目立つギャビーの美貌とスタイル、その香りにパリを思い出すぺぺ。

『モロッコ』(1930年)『望郷』『カサブランカ』(1942年)……と、みな北アフリカの乾いた土地が舞台なのは不思議だ。


ミレーユ・バランは他にたいした出演作もなく、この映画がそのまま代表作だ。当時はやりの、ディートリッヒに似た、細く引いた眉、恍惚とした目の表情、傾けてかぶる帽子がよく似合う。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。