映画 『鬼龍院花子の生涯』

監督:五社英雄、原作:宮尾登美子、脚本:高田宏治、撮影:森田富士郎、編集:市田勇、音楽:菅野光亮、主演:仲代達矢、岩下志麻、夏目雅子、1982年、146分。 


上映当時、夏目雅子のセリフ、「あんたら、なめたらいかんぜよ!」が有名になった。


土佐の侠客:鬼龍院政五郎(通称・鬼政)と、その娘花子の波乱万丈の生涯を、12歳で鬼政のもとへ養女に出され、約50年にわたりその興亡を見守った松恵の目線から描いた作品。 

映画は、松恵(夏目雅子)が、花子の亡骸に対面するところから、回想に入り、ラストでここに戻る。

 

大正7年秋、土佐・高知の侠客、鬼龍院政五郎(仲代達矢)一家に、松恵(仙道敦子)とその弟(桜井稔)がもらわれてくる。弟はすぐ逃げ出すが、松恵は掟に従い奉公することになり、やがて政五郎の身の回りの世話をすることになる。屋敷には、政五郎の妻・歌(岩下志麻)以外に妾が二人、手下が十人ほどいた。・・・・・・


侠客として一家を背負う政五郎には敵も多く、政五郎の選択と人生は、そのまま、歌や花子や松恵の人生を左右する。

理屈や正負の一致しない世のしくみに巻き込まれ、侠客が侠客として筋を通すだけに、女たちはまた、心で折り合いをつけて生きていかねばならない。

 

通常、男のドラマになりがちな侠客の物語では、単に付属品的にしか描かれない女の存在を、男と同じ資格で、その生にまで迫るストーリーに乗せたのは、おそらく原作であろうが、映画でも、さまざまな年齢や境遇の女たちが、男に翻弄されながらも、しかし前向きに、ひたむきに生きていく姿が撮られており、それが愛であろうが嫉妬であろうが、生きるというケジメの上に描かれていることで、単純なヤクザものとは一線を画す作品となっている。

 

強く骨太な生きざまを描くには、それなりの素材が必要で、歌が幼い松恵にするビンタや、土佐犬による闘犬、出演女優すべての女体のエロスなどが、ストーリーの味わいを濃くしている。

仲代達矢は相変わらず大胆にして繊細な演技を見せるが、この映画ではセリフの少ない岩下志麻の存在感、当時子役で松恵を演じた仙道敦子、大物俳優を相手に遜色ない演技を見せた夏目雅子は注目されてよいだろう。 

松恵の弟役、桜井稔少年は、小栗康平の『泥の河』で、主役加賀まりこの息子を演じた子だ。


このあと、五社と岩下、その他東映ヤクザ映画おなじみの俳優陣により『極道の妻たち』が撮られることになる。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。