監督・脚本・編集:齋藤孝、撮影:百束尚浩、音楽:おおはた雄一、主演:坂井真紀、小林且弥、2007年、100分。
なぜか好きでときどき観る作品。
音大の学生で、ビルの窓拭きのアルバイトをしている慎(小林且弥)は、偶然、窓の外から、中で働く香子(かこ、坂井真紀)の姿が目にする。
香子は29歳独身のOLで、上司と不倫の関係にある。田舎の漁村に暮らす父親(渡辺哲)は妻を亡くしており、娘のことが気がかりで、一方的に見合いの写真まで送ってくる。・・・・・・
いわゆるアラサーものには違いないが、設定、ストーリーがおもしろい。笑えるおもしろさではなく、複線での展開と、それぞれの状況を作るセリフや各人の演技が魅力的でほほえましいのだ。
ある動きの直後、ふっと切る編集は意図的だがイヤミはなく、次につながる。
ぎこちない不器用な学生と、表向き平凡でルーティンをこなしながら上司との関係を引きずり、自ら縁を切るOL、…どこにもありそうな二人がようやく食事をするシーンは憎めない。
動物園でのデート、父親を交えた3人での食事、香子の実家での一連のシーン、慎の母校での一連のシーンなど、丁寧に撮られていて共感できる。明らかに、母校の音楽室にあるピアノは、香子の父親の存在と呼応している。
暗闇でヴァイオリンを弾いて香子に聞かせるシーンなど、やや暗すぎるきらいがあるが、光を含め、演技、カメラ、編集などに、細やかな演出が効いている。
坂井真紀の背伸びしない演技がよい。小林且弥は『コンクリート』など不良で残酷なイメージがあるが、ここでは素朴で純真な役柄を控えめに演じている。
沈黙のシーンも多いが、映像と力をもったセリフで、すてきな作品が完成した。沈黙が長いシーンは、一定の効果のもとに許されると思うが、この映画の場合はそれに当たる。
さりげなく、ある意味何でもないような映画だが、機会があれば、観ていただきたいと思う。
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