映画 『氷の微笑』

監督:ポール・バーホーベン、脚本:ジョー・エスターハス、撮影:ヤン・デ・ボン、編集:フランク・J・ユリオステ、音楽:ジェリー・ゴールドスミス、主演:マイケル・ダグラス、シャロン・ストーン、1992年、128分、原題:Basic Instinct(基礎本能)


原タイトルをそのまま訳すと『基礎的本能』…これを『氷の微笑』と訳した配給会社の人間はエラい。邦題がめちゃくちゃな映画が多いなかで、これは大成功だった。

撮影のヤン・デ・ボンは、後に『スピード』を撮ることになる。


豪華な邸宅、海辺に面した豪華な別荘、高級スポーツカー、カーチェイス、官能的な美女、セックス、ドラッグ、ジャック・ダニエル、アイスピック、殺人、ディスコ、犯人のわかりにくいサスペンス、…これだけ材料がそろって盛り上がらなければ、一挙に駄作となりかねない。

テーマとして、ヒューマンでも、誠実な愛でもないからだ。


シャロン・ストーンが、海に向けてタバコをふっ飛ばすなど、かっこいいシーンや、取調室での脚の組み替えなど、エロチックなシーンが多く、その意味でのエンタメ性を、しっかりわきまえた作品だ。


『スピード』より前の作品で、ヤン・デボンが撮っているので、カーチェイスシーンもみごとだし、カメラのパンもなめらかで、クレーンを使ってよく動いている。空から地面から、晴れの日もあり、どしゃ降りにする日もあり、観ることを飽きさせない配慮がわかり、内容とは別に、<良心的な>映画でもある。


いろいろヤラセ風のシーン、小細工したなというシーンも多く、何回も観てくると、発見の楽しみもある。

警察署内のエレベーター。別に動いているのでなく、ドアが閉まるときと開いたときの奥の風景を一瞬にして変えている。初見で見破れる。

セックスが終わったあとに、レズ相手がふっと脇に立っている、これは実際にすっと寄ってきたようで、微妙に髪が揺れている。


美術は『遊星からの物体X』のロブ・ボッティンだ。確かに、ちょっとだけテレビに映るモンスターは彼の作に違いないが、それだけだろうか。たったそこだけでバケモノづくりのプロが起用されたのではなく、死体の顔は、すべて彼のクルーによるはずだ。

例えば、冒頭で男がアイスピックでメッタ刺しにされる。あの細かいカットの連続のなかで、一瞬、男の鼻をアイスピックが突き通す。そのときの男の顔面は、鼻だけでなく、頭部ごと作られていて、その鼻をアイスピックが突き通してるように見える。

1秒もない瞬間だが、あの仕事をしていたら、ボッティンが引っ張り出された意味もわかるというものだ。


映像は編集まで含めたトリック。騙されるなら、うまく?華麗に?騙されたいよね。

イケメン、ワル、拳銃は、ノワールものの三大要素にして必要条件と思っている。イケメンを美人に置き換え、拳銃をアイスピックに置き換えたのがこの映画だろう。


この映画を成功に導いたもうひとつの重大な要素は、映画音楽の大御所、ジェリー・ゴールドスミスの音楽と、画面にピタリと合わせる曲入れだ。音楽がいかに大事か、音楽がいかに映像とマッチしていなければならないか、を、よく教えてくれる映画でもある。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。