映画 『トレインスポッティング』

監督:ダニー・ボイル、原作:アーヴィン・ウェルシュ、脚本:ジョン・ホッジ、撮影:ブライアン・テュファーノ、編集:マサヒロ・ヒラクボ、主演:ユアン・マクレガー、1996年、94分、イギリス映画、原題:Trainspotting


「トレインスポッティング(Trainspotting)」は元々は「鉄道マニア」を意味するが、原作者・アーヴィン・ウェルシュは「ヘロイン中毒者」の暗喩として使っている。


ユアン・マクレガーを一躍有名にした作品でもある。

監督は、後に、『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)や『127時間』(2010年)を撮ることになるダニー・ボイル。

 

毎日のようにヘロインを打ちながら、それでも、こんなこっちゃいけねえんだ、なんとかしなくちゃ、と思いつつ、またヤクの世話になってしまう繰り返し。

やがて、ちょっとしたきっかけで、ヤクの世界から抜け出して終わり。

 

こう書くと、犯罪者の更正物語のようだが、そうではない。汚れたものは汚れたままにリアルに写し出すが、ヤク中だからといって暗くジメジメさせず、気持ちは常に前向きに「普通」をめざしている。

いわば、ヤク仲間と縁を切って、「普通」の世界にようやくたどりつく、レントン(ユアン・マクレガー)という青年の物語だ。


たしかにナレーションも多いが、画面の切り替え、カメラ、色使い、ポップなせりふなどで飽きはこない。 


『時計じかけのオレンジ』にも似たセンスだが、あのような陰湿さはない。スタイリッシュな人物の動きやセリフに、テンポもよく、効果的な音楽によって、汚れ物を見せられながらも、不思議と観る者の心には汚れを残さない映画だ。

単純明快で一気に見終われる。


ラストで初めて笑顔を見せるレントン…実に爽快なラストシーンだ。まさに、やったね、って感じになるのだ。 

仲間から金を奪ったから、やったね、ではなく、それによって俺もようやく「普通」の生活の仲間入りができるんだという、やったね、だ。

 

シャネルの5番で満たされたトイレが希望だ、しかしその便器はゲロのように超キタナく、でもそこに手を突っ込むとその奥にはきれいな海が広がっている。

横断歩道のビートルズをまねたシーンなど、さまざまなBGMと合わせ、しゃれっ気たっぷりな映画でもある。

 

家族や社会問題めいた話題もチラホラ出しながら、複雑な心理をテーマとせず、ひたすらレントンの生きざまをえぐるようにして描いたのが成功のカギだろう。

ブライアン・イーノその他、次から次に流れる曲も、映像にマッチしている。エンディングに流れる曲もストーリーのエンディングにダブって効果的だ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。