監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント、撮影:ハリス・サヴィデス、2003年、81分、原題:Elephant、R15+
『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)のガス・ヴァン・サント監督作品。カンヌ国際映画祭で、最高賞パルム・ドールと監督賞を、史上初めて同時受賞した。
1999年4月20日にコロラド州で起きた、コロンバイン高校銃乱射事件を題材にしている。
予告時のキャッチコピーは「キスも知らない17歳が銃の撃ち方は知っている」というもので、題名は、北アイルランド紛争を描いた番組“Elephant”からとられている。
明確な主役というものはない。ラストで銃を乱射する二人の男子高校生を含め、何人かの男女の高校生が出てくる。彼らは、二回以上出てくるが、同じシチュエーションを別の高校生からとらえて再度映すシーンもある。『桐島、部活やめるってよ』は、この映画を模しているかも知れない。
一人一人の高校生にせまっていく話もなく、全く日常的な一日の流れが撮りまくられていくだけで、音楽も伴わない。
ある生徒がグラウンドを横切って、校舎に入り、廊下や階段を歩いて、屋上に出るまでの長回しワンカットがあるが、その際、ベートーヴェンの月光ソナタの三連符が流れる。青空のもと、グラウンドにいる高校生たちの運動風景とも、全くそぐわないBGMが流れるあたりから、すでに異様な前兆がみられるのだ。
しかし、銃を乱射した二人の生徒にしても、その原因や理由への言及はほとんどない。まるで、ゲーム感覚で計画を立て、実行に移す。殺すときでさえ、二人の表情に緊迫したようすも見られない。ラスト近く、二人の一方がもう一方を殺し、さらに逃げまどうカップルを食堂の冷凍室で見つけ、ライフルを向けたままエンディングとなる。
これを少年二人の狂気として片付けられるのか。そもそも日常の延長に非日常を産むきっかけがあったはずなのは、確かであろう。
動機などに一切触れず、他の生徒とともにいた仲間の生徒が、多少のきっかけらしきものは描かれているとはいえ、ある日突然、大人の尺度からすれば、反社会的行為を惹き起こしたのだ。観終わってみても、しばらくは、よくも悪くも余韻あるいは残響の消えない映画である。
出演生徒はみな、本名の名前で出ており、生徒のアドリブにまかせたセリフも多いようだ。映像面では、たまに出てくる空は演出目的で、青空が次第に暗い雲で覆われる。
問題となったテーマを、いたずらに脚色せず、ありのままの高校生の学校生活のなかで、日常の隣りに、いとも容易に非日常が現れ出るという現象を、日常的なカメラのみでとらえて、かえって映像化効果を鮮明にした作品だ。
ドキュメンタリー映画のようでありながら、素人を使うからには演出が必要なのであって、音響、撮影、編集と、どこまでもフィクショナルである。しかしそれは、y=x分の1のグラフのように、最大限にリアリティに近付こうとしたフィクションなのである。
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