映画 『少年時代』

監督:篠田正浩、原作・企画・製作:藤子不二雄Ⓐ、脚本:山田太一、音楽:池辺晋一郎、美術:木村武夫、主演:藤田哲也、堀岡裕二、岩下志麻、1990年、117分、カラー。

 

昭和19年、東京への空襲が激しくなってきて、伯父宅へ疎開するため、小学5年の風間進二(藤田哲也)は、母親(岩下志麻)とともに列車で、富山県の風泊(かざどまり)という駅に着く。

新しいクラスは男組で男子だけで、級長である大原武(堀岡裕二)が、さっそく進二のところに遊びに来る。・・・・・・

 

終戦となり、迎えに来た母親と進二が列車に乗るまでの一年近くを描いた作品。監督の篠田正浩は岩下志麻の夫。

東京から富山に来た一人の少年は、初め仲間から好奇のまなざしで見られるが、級長の武の下、わりと歓迎される。

やがて、武の存在をきっかけに、進二は少年集団のなかで、いろいろな立場になり、葛藤も味わうが、ラストで進二の乗る上野行きの汽車を、武が見送るため一目散に走って追ってくる光景は感動的だ。

時代が戦時中のことでもあり、大東亜戦争の影が常に見え隠れする。戦時中のニュース映像もあり、少年たちが登下校時に歌う歌は、『若鷲の歌』など、みな軍歌だ。出征兵士を見送るシーンもある。 


この映画のために作られ井上陽水の『少年時代』が、主題歌としてラストに流れる。まさにその歌詞のような一年間の疎開先での進二少年の時間は、過ぎてしまえば、初めて出会う同級生たちとの濃密で印象的な思い出となり、生涯忘れえない時間となったことだろう。


富山県の山なみ、海岸、四季折々の風景が美しい。

今回観て、またも驚くのは、ロケ場所や再現されたセット・小道具のみごとさだ。

木村武夫によるセットづくりは精緻をきわめ、建物、室内、汽車の中、教室に貼ってある習字の作品にいたるまで、実にみごとに時代を再現している。


演出に凝ったところはないが、内容柄、おそらく奇異な演出より、素直で自然な演技を優先させたかったからだろう。

そのかわり、カメラが実にやさしい。やさしく、少年たちの表情や対象をとらえている。

層の厚い脇役陣の名演技も心強い。

雪合戦、騎馬戦のシーンなどもあり楽しい。


少年時代というテーマでありながら、複雑な心理劇に傾かず、しっかりした脚本と構成により、全体のバランスがとれ、芸術に値する映画に仕上がった好例である。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。