監督・編集:黒澤明、脚本:小国英雄、久板栄二郎、黒澤明、菊島隆三、橋本忍、撮影:逢沢譲、音楽:佐藤勝、主演:三船敏郎、森雅之、香川京子、三橋達也、1960年、150分。
『天国と地獄』(1963年)と並ぶ黒澤明の二大現代劇のひとつだ。 とにかくおもしろいので、一年に一度は観る作品。
何しろ黒澤含め脚本が5人もいて徹底的に練り上げられており、寸分の狂いなく、畳みかけるように緊迫したシーンがつながり、長さを感じさせない一級品だ。
サスペンス調とするかぎり、チェイス度(追いかけたくなる度合い)をよく心得て仕上がっているが、それのみならず、西村晃が画面から消えるのを境に突入する後半戦はシリアスそのものとなり、廃墟のような工場跡の地下での第二幕も、みごとに充実している。
『天国と地獄』のように正義が勝って終わらず、悪い奴が犠牲を強いられながらも生き延びるという結末だ。
ベテランの役者が総出演し、それぞれの役に成りきり、演技の火花が散るのも楽しい。
西村晃は全く傑作そのものだし、千変万化の森雅之は珍しく悪党を演じている。後半出番の多くなる香川京子は、前半は抑え気味の演技だ。加藤武も後半から三船と並ぶ主役となるが、ラスト近く、黒澤の代弁とも言えるセリフを吐く。まだ駆け出しの田中邦衛もチラリと登場する。
この映画の始まりは、かなり個性的だ。
いきなり挙式の披露宴会場が舞台として現れ、そこで主要な登場人物が、新聞記者らのセリフからわかる。 観客にはありがたい配慮だ。
特にファーストシーンで、足の不自由な花嫁(香川京子)が入場し、いきなり結婚行進曲が途絶えるあたりに合わせ、観る者にただならぬサスペンス感をいだかせ、一気に映画の中に引っ張り込んでくれる。
政界の巨悪は電話の向こうに暗示されるだけだが、官僚と業者の汚職を批判するのみならず、官僚がその機構に長くいると、悪を批判することもできないほどに神経が麻痺してしまうことも批判の対象となっている。
そうしたテーマをそれだけに終わらせず、人間の生い立ちや夫婦の思いやりにまで踏み込んで描くという危険な技を、みごとにやってのけた作品だ。
ただの批判で終わらず、それを折り込みながら、立場における人間、状況によって変わる人間の心情の変化まで描き出し、エンターテイメントとして完成度の高い映画となった。
厳格で細かな演出が、随所にみられる。監督が厳しくなければ、いい映画などありえない。黒澤作品の中では傑出した映画となっている。
ちなみに、佐藤勝の音楽も冒頭から効果的だ。
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