監督:ジョエル・シュマッカー、脚本:エブ・ロー・スミス、撮影:アンジェイ・バートコウィアク、編集:ポール・ハーシュ、音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード、1993年、118分、原題:Falling Down
ある男(マイケル・ダグラス)が娘の誕生日に、別れた妻の元を訪ねる一日のストーリーだが、なかなかおもしろいエピソードが並ぶ。
マイケル・ダグラスの口元のアップから始まり、渋滞でイライラする表情が映される。
そう、この男はイライラしどおしなのだ。ただでさえ暑いのに、電話に出る妻は来ないでくれといい、やがて法的には犯罪になることをしでかし、異常な人格が現れてくる。
しかし、彼のセリフにもあるように、自分なんかより街にはもっとおかしなヤツが山ほどいる、というのはそのとおりで、この男が最初から異常だったわけではないのだ。
猛暑、渋滞、ヤンキー、杓子定規な店員、ナチ崇拝者、無駄な道路工事、……イライラが最高度に達したとき、常人が狂人へと変わる。
男は白いワイシャツにネクタイをした普通のサラリーマンだ。日常のなかに潜む狂気を描いているが、誰にでもありうることのように描かれているところがいい。
男はただひたすら、娘に会いたかった、最初はそれだけだったのだから。
監督は、『依頼人』のジョエル・シュマッカーで、男と、娘のいる妻の家、男を追う警察と、三つの軸をうまく編んで仕上げている。
男を追う刑事(ロバート・デュバル)はこの日が退職の日で、同僚や署長にもからかわれる存在だが、彼を慕う女性刑事と男を追い続ける。幼い娘を亡くした経験をもつこの刑事の家庭のようすも描かれ、ストーリーに厚みをもたせている。
日常のなかに潜む狂気を、誰にも起こりうる現象として描いている。そして、たしかに、誰にも起こりうるのだ。
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