映画 『明治一代女』

監督:伊藤大輔、原作:川口松太郎、脚色:伊藤大輔、成澤昌茂、撮影:鈴木博、音楽:伊福部昭、主演:木暮実千代、1955年、84分。

これを扱った映画は、これを含め、7本ある。


明治20年に、日本橋浜町で起きた芸妓による殺人事件をモチーフに、川口松太郎が書いたストーリーを映画化したもの。

東京・柳橋の芸者、叶家お梅(かのうやおうめ、小暮実千代)は、歌舞伎役者、澤村仙枝(さわむらせんし、北上彌太郎)と恋仲であったが、お梅たち芸者衆のお得意で、歌舞伎舞台や座敷をもつ「大秀(おおひで)」の大女将お秀(杉村春子)は、自分の娘を仙枝に嫁がせようとする。 


来春には、仙枝は三代目仙之助を襲名し、披露公演も予定されていた。お梅はその役に立ちたいと願うが、それには芸者にとっては何かと莫大な費用がかかるのであった。そのへんのお梅の気持ちと、お梅が仙枝とは添い遂げられないことを知った箱屋の巳之吉(みのきち、田崎潤)は、故郷の塩田を売却して金作をする、そのかわり、長い間、お梅を慕ってきたこともあり、夫婦(めおと)になってくれるよう打ち明ける。(※箱屋とは、三味線などを持って、芸者に付いて歩く男のこと。)


お梅は巳之吉の気持ちに感謝しながら、夫婦になることを約したものの、女の意地にかけても、巳之吉の工面してくれた金を、必ず自分の気持ちの現れとして襲名披露に使うことを仙枝と約束するため、もう一度だけ仙枝に会わなければならない、と固く自分に誓う。・・・・・・…


昭和30年に、明治20年の花街を舞台に、撮られた映画。冒頭の軍人たちによる芸者遊びと、その振る舞いに、時代が反映されている。

巳之吉が初めてお梅に心中を打ち明けるシーンが、情感豊かに描写されている。川面(かわも)からの光がゆらゆらお梅の顔に当たる演出で、お梅の妖艶さが際立つ。

巳之吉がお梅を呼び出し、橋のたもとで刃傷(にんじょう)沙汰になるシーンも、かなり長めで、ここが話のヤマだから当然だが、かなり細やかな演出が効いている。

浦辺粂子ら脇の演技や、それをきちんと映し出すカメラはやはりプロの手によるものだ。カメラは固定と移動をきれいに使い分けていて、半端な使い方がない。


しかし、何といっても、主演の小暮実千代がすばらしい。自分でさえ高齢になってからの姿しか見ない女優だが、30ちょっと過ぎでこれだけの役をこなしているのはみごとだ。

歌舞伎の演目もあり、一流芸者の三味線や着物や身近な生活道具も、目を楽しませてくれる。通りや路地をゆく物売りやチンドン屋など、時代の風物も堪能できる映画だ。 





日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。