映画 『渚のシンドバッド』

監督・脚本:橋口亮輔、企画:ぴあ、ぴあフィルムフェスティバル、撮影:上野彰吾、編集:米田美保、音楽:高橋和也、北原京子、主演:岡田義徳、草野康太、浜﨑あゆみ、1995年、129分、東宝・ぴあ提携作品。

ロッテルダム国際映画祭グランプリ。トリノ国際ゲイ&レズビアン映画祭グランプリ。毎日映画コンクール最優秀脚本賞受賞。


ぴあフィルムフェスティバル企画作品。浜崎あゆみが歌手デビューする前の作品。

高校2年生のひと夏の出来事を描く。


伊藤(岡田義徳)は心秘かに、同じクラスの吉田(草野康太)を好いていた。吉田は、クラス内で優等生の清水(高田久実)と親しかった。

少し前に転校してきた相原(浜崎あゆみ)はエキセントリックな存在であったが、誰彼なく話しかけるところもあり、吉田、伊藤、清水のいる吹奏楽部に入り、次第に三人と打ち解けていく。


クラス内のいろいろないきさつから、吉田は少しずつ、相原を好きになっていく。……

ある日、体育の授業前、伊藤がクラスメートに、<ホモ>であることをからかわれが、吉田は、気にするな、と声をかける。二人だけになった教室で、伊藤は思いきって吉田に、本心を打ち明ける。

伊藤は父親に言われ、精神科に通院することになるが、そこで相原と会い、夜の川沿いを、無邪気にしゃべりながら帰る。相原はかつて、強姦されたことがあり、しばらく薬を飲んでいたのだ。・・・・・・


この<高校生物語>は、自然に、夏休みが時間的舞台となる。夏休み少し前からのストーリーで、生徒の実体を押さえながら進めていくなりゆきと、歩くようなテンポがよい。

変にはじけることもなく、陰鬱になることもなく、それぞれがそれぞれとのかかわり合いのなかで、純真にぶつかり合う姿は、痛々しくもほほえましい。


長回しのシーンも効果的だが、必要以上のセリフを制限したのが、成功の要因だろう。

伊藤と吉田は、相原を追って、相原の故郷である海岸のある町にやってくる。浜辺でのひと幕は、長回しや絶妙なセリフ回しと、興味深い設定や演出により、ラストにふさわしい圧巻となっている。

相原の服装をしている伊藤に、吉田はそれが相原と思って、本心を伝える。

岩場から相原が姿を現し、言い合いのあと、草むらに相原が仰向けに寝るが、吉田は何もできない。その間、セリフがなく、相原のいたたまれない過去を、吉田だけでなく、観ている側も想起してしまうのだ。


これら主役三人の魂の物語が真摯にこちらに伝わるのは、他のクラスメートらとの出来事が合間合間に語られているからでもあり、セリフに使われる言葉も平易なものでできているためだろう。

彼らの目線を決して越えることなく、暖かなまなざしで撮られた一篇である。特に、岡田義徳、浜崎あゆみの演技がよい。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。