監督・脚色:鈴木英夫、原作:南条範夫「おれの夢は」、撮影:完倉泰一、美術:中古智、録音:斎藤昭、照明:金子光男、編集:岩下広一、音楽:佐藤勝、主演:山崎努、西村晃、1965年、103分、モノクロ、配給:東宝
岩尾(山崎努)、下山(西村晃)、熊谷(久保明)、小西(加東大介)の四人は、表向き水商売をしていると見せかけて麻薬売買で儲けている会社に忍び込み、百万円近くを奪った。用心深く冷徹な岩尾が集めたメンバーは、前科三犯の悪党・下山、熔接技術を持っており金庫破りに打ってつけの熊谷、亜東工業株式会社社長のお抱え運転手である小西、であった。岩尾は、この小さな強盗どころか、大きな仕事を企んでいた。亜東工業のビルに忍び込み、従業員の給料として一日だけ保管される4千万以上の大金を強奪しようというものであった。亜東工業は7年前、ビル建設中に岩尾が現場で働いてところであり、構造などを熟知していた。手間ひまかかったが、4人は札束の詰まったジュラルミンのトランクを手に入れることができた。現金は、数えてみると、合計4千数百万円にのぼり、岩尾はこれを4人で均等に分けることにした。だが、岩尾は足がつくのを恐れ、半年間は金に手をつけぬよう3人に言い渡し、3人も同意のうえ、カネは自分の始めた不動産屋の地下金庫に保管することにした。その二階はそのまま岩尾の住居となっており、岩尾にはルミ子(団令子)という愛人がいた。
小西は、社長車の運転手という仕事柄、社長の乗せる女・お京(久保奈穂子)が、社長の妾だということを知っていた。お京は、社長が店を出すという約束を反故にしたと、小西に愚痴った。以前からお京に惚れていた小西は、自分がそのカネを出すと言い、岩尾に掛け合って、自分の分け前を欲しい、と頼みこむ。岩尾は、下山と熊谷が同意するなら仕方ない、という。みながやむを得ず同意したところで、地下の金庫を開けにいくが、立ち会っていた下山は、小西を後ろから襲って絞め殺してしまう。・・・・・・
タイトルは、冒頭の強盗のとき、非常階段を上がっていくシーンがあり、そこからとられたものであろうが、また、4人とルミ子の思惑が交錯し、それぞれの運命が一段一段階段を下りるように奈落の底に通じるという意味からつけられたとも言える。
はじめ、意気投合して4千万を手に入れた4人ではあったが、小西につづき、若い熊谷も、岩尾とルミ子の巧妙な罠に嵌り、ルミ子の色香にほだされて、結局は下山に殺されてしまう。最後には、岩尾と下山が残るが、その駆け引きを横に見ていたルミ子だけが生き残る。そのルミ子も刑事に尾行されている砂丘のシーンで終わりとなる。
悪党4人に悪女一人を加えた脚本で、強盗ものに多くあるような、強盗対警察のドラマではなく、強盗にいたるまでの経緯のドラマでもなく、強盗に成功したあとの強盗犯たちのドラマである点が個性的だ。
サスペンス風なタッチを強調するため、台詞を多くすることを避け、要点のみがわかるようにしたのは正解だ。さらに、カメラワークもよい。肝心な台詞回しでは、対話するそれぞれの表情をアップで入れるからには、役者陣の表情の演技力も要求される。特に、タイムリーに入る目つきのカットがよい。
熊谷の死体をトランクに入れたまま、岩尾と下山が車を崖から落とすシーンでは、車が落ちるところから粉々になって海に突入するところまでをワンカットで撮っている。撮り直しが利かないシーンでもあり、撮影の本気度が伝わる。この車転落シーンはみごとだ。
欲の絡んだ話で、最後に勝つのは誰か、ということになるが、ルミ子が勝ったとも言えない。本作品は、強盗成功後の心理や心境の変化を描き出したものであり、そこをカメラワークとともに楽しめるかで評価が分かれるだろう。
成瀬巳喜男の諸作品では、いつも笑顔でお転婆な娘を演じている団令子が、ほとんど笑顔を見せぬ悪女を演じているのもおもしろい。
0コメント