監督:スタンリー・キューブリック、脚本:ダルトン・トランボ、原作:ハワード・ファスト、製作:エドワード・ルイス、製作総指揮:カーク・ダグラス、撮影:ラッセル・メティ、編集:ロバート・ローレンス、音楽:アレックス・ノース、主演:カーク・ダグラス、1960年、186分、197分(復元版)、配給:ユニバーサル・ピクチャーズ、原題:Spartacus
紀元前、共和政ローマ期に起こった奴隷による反乱のうち、イタリア本土カプアで起きた最も大規模だった第三次奴隷戦争、いわゆるスパルタクスの反乱をモデルとしたスペクタクル映画。
炎天下のリビア鉱山では多くの奴隷が働かされていた。一人の奴隷が倒れたため、トラキア人奴隷のスパルタカス(カーク・ダグラス)が助けようとしたところ、衛兵と揉み合いになり、飢え死にの刑に処せられる。剣闘士の候補者を探しにきた剣闘士養成所のバタイアタス(ピーター・ユスティノフ)はスパルタカスに可能性を見出し、カプアにある養成所に連れて行き、厳しい鍛錬をほどこす。・・・・・・
冒頭、4分ほどの Overture(序曲)で壮大なスケールの音楽を聴かせ、本編に入る。3時間以上に及ぶ映画で、ほぼ中ほどに Intermission(休憩)が入る。音楽は、アレックス・ノースの幅広い作風を知ることができる。
本作品は、スタンリー・キューブリックが監督になっているが、そこに至るまでに紆余曲折があり、制作過程でもエピソードの多い作品だ。アレックス・ノースもこの後、『2001年宇宙の旅』(1968年)の音楽について、スタンリー・キューブリックとトラブルがあった。
オープニングのタイトルデザインは、ソウル・バスが担当している。
当時のカネで1200万ドル(約43億2千万円)の費用がかかったようだが、観ていれば納得できる。興行収入は6千万ドル(216億円)とのことだ。種々の武器や防具、労働用具、室内セットや装飾品以外にも、巨大な剣闘士養成所やエキストラ、スタントマンなどに費用がかかっているのは見たとおりであるが、おそらくロケ地探しと野外でのセット設営にも相当な予算を組んでいることがわかる。そこに、カーク・ダグラスの決意と情熱をみることができる。出演陣も、ローレンス・オリヴィエ、ジーン・シモンズ、チャールズ・ロートン 、ジョン・アイアランド、トニー・カーティスなど豪華な顔ぶれだ。
尺の長い映画になると多少中だるみの出る危険性があるが、本作品は結果的にはほとんど無駄なく進行したほうだろう。部分的に、こういうカットは不要だというところもないわけではないが、それでもだいぶフィルムを捨てたほうだと想像する。もともと、奴隷たちとローマの支配者という二つの軸があるので、ストーリーが間延びする可能性は少なかった。
スパルタカスのリードのもと、奴隷たちが一斉に養成所を脱出するシーンは迫力がある。さらに、終盤のスパルタカス率いる奴隷の群れとローマ軍との戦いは本作品の圧巻であろう。これが<動>の部分とすれば、その前に<静>の部分が置かれるのは常套だ。養成所脱出の前には、憤懣のたまったスパルタカスや奴隷たちが映され、ローマ軍との戦いの前には、スパルタカスとヴァリニア(ジーン・シモンズ)との会話が置かれる。規模からしても負けるかも知れない、自身も死ぬかも知れない闘いに挑む前の男女の会話は、なかなか洗練されていてよい。
特徴的なシーンとしては、おそらくストーリーの<穴>を埋めるためもあろうが、戦いの前など、スパルタカスが人々を見回るシーンが付いているところだ。養成所を脱したあと、奴隷やその家族が、広大な山の斜面で、戦闘の訓練をしたり、女が料理を作ったりしているところを、スパルタカスが見て回る。ローマ軍との戦いの前にも、スパルタカスは皆のようすを見て回る。そこには、壮健な男たちばかりではなく、抱き合う老人夫婦がいる、幼い兄弟がいる、赤ん坊を抱く母がいる。ある子どもは「ローマに帰りたい」と母に言う、母は「もう寝なさい」と答える。これらの言葉や家族の姿を映し、自身のテントに戻ったスパルタカスの姿を映す。この表情はとてもよかった。そしてヴァリニアとの会話に移るのである。
ローマ軍との戦いのあと、まだ映画は続く。この部分が要らないという批評もあるが、ここはなければならないだろう。そこからはクラッサス(ローレンス・オリヴィエ)が主役のようになる。スパルタカスの反乱が大規模なものであったにもかかわらず、結果としては磔の刑となり、現実にはクラッサスの天下がやってくる。しかし、ヴァリニアとの間に産まれた男の子には、いつの日か、スパルタカスがどんな男であったか、何をしたのか、をヴァリニアが語るのだろう。
スパルタカスの遺志を継いで、母子がバタイアタスとともにこの地から遠ざかっていくラストはよかった。
撮影面では、大パノラマが何回も映るなど、スクリーンで見れば迫力満点の映画だと思う。ローマ軍との戦いの始めに、火をつけた藁の塊が斜面を転がり、ローマ軍の先鋒を退散させるシーンは、意表を突く戦端だった。
オーソン・ウェルズ監督の『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』(1965年)での戦闘シーンは、この映画を参考にしているかも知れない。
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