監督・脚本:二宮健、脚本協力:喜安浩平、原作:イーピャオ、小山ゆうじろう『とんかつDJアゲ太郎』(『少年ジャンプ+』)、撮影:工藤哲也、照明:藤田貴路、美術:宮川卓也、棈木陽次、編集:穗垣順之助、音楽:origami PRODUCTIONS、黒光雄輝 a.k.a. PINK PONG、主題歌:ブルーノ・マーズ『ラナウェイ・ベイビー』、主演:北村匠海、2020年、100分、配給:ワーナー・ブラザース映画
渋谷区円山町にある豚カツ屋「しぶかつ」の跡取り息子・勝又揚太郎(北村匠海)は、店を継ぐよりDJになることを夢見ていた。ある日の閉店直後、出前を頼まれ、配達に行くと、そこは「WOMB」(ウーム、❛子宮❜ の意)というクラブであった。豚カツを頼んだのは、オイリー(伊勢谷友介)というDJであった。揚太郎は場内の雰囲気に圧倒され、オイリーが帰るところをつかまえて、自分もDJになる、と宣言する。揚太郎には4人の仲間がいて、そのうちの一人は「円山旅館」の跡取りで、その一室が5人のたまり場になっていた。DJになると宣言した揚太郎の意を汲んで、4人も協力し、そのへやを簡易なクラブもどきに作り上げた。揚太郎は自ら<DJアゲ太郎>というチラシまで作って配り、「豚を揚げるか、フロアを上げるか」と息巻く。
一方、ちょうど、家賃が払えず、アパートを追い出されたオイリーは、揚太郎にDJのことを教えるからと言い、機材やレコードをすべて、そのたまり場に持ち込む。オイリーの紹介で、早くも「WOMB」のDJをやることになる。揚太郎にとってのデビューであったが、フロアは盛り上がらず、失敗に終わり、紹介者のオイリーも行方不明となる。・・・・・・
製作はフジテレビジョン、ワーナー・ブラザース映画、集英社となっており、テレビ会社が入る企画は、カネはかけるがそれだけにその意向が内容に反映され、シリアスなドラマや刑事ものは、だいたいが駄作に終わることが多いので、あまり期待せず見始めた。だが、本作品は、美術、セット、撮影にカネはかかっているが、各編集後シーンがストーリーのメリハリを妨げるようなことはなく、かえって楽しい作品となっている。
監督はまだ若いが、注意したいのは、脚本協力として喜安浩平が入っていることだ。ボクシングアニメ『はじめの一歩』の主役・幕之内一歩の声を担当したことで有名だが、脚本家の顔ももち、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)では、監督の吉田大八とともに共同で脚本を担当している。
豚カツを油に入れるとき・揚げるときやキャベツを切るときの音やリズムが、DJの音楽と重なるあたりはおもしろい。揚太郎は、豚カツ屋とDJの仕事には多くの共通点を見つけて精進していくことになるので、それらの音を重ねたところはうまいと思う。
揚太郎の憧れの女性、苑子(そのこ、山本舞香)、父・揚作(ブラザー・トム)、母・かつ代(片岡礼子)、妹・ころも(池間夏海)、仲間の4人などの登場人物やセリフのある役が多いが、うまくグラデーションをつけて、ストーリー上の遠近の適所に配置されている。本筋はシンプルだが、そこの肉付けされていくというストーリー展開がよかった。
原作はコメディタッチのギャグ漫画なので、その味わいを損なうことなく、盛り上げるところは盛り上げ、その先に一度シリアスな場面を置き、最後に向け少しずつ盛り上げ、ラストに圧巻シーンを用意するという、喜劇の常套である起承転結を踏んでいる。これこそ、コメディドラマのエンタメ性である。コメディであっても、エンタメ性のない作品はたくさんあるのだ。
そのシリアスなシーンは、今までキャベツを切ることしかさせてもらえなかった揚太郎が、父に言われて初めて豚カツを揚げるときだ。といって、妙にシリアスになりすぎず、職人らしき言葉であっさりと大事なことを伝える父とそれを素直に聞く揚太郎の素顔がすばらしい。
エンドロールの流れる途中で、揚太郎が初めて揚げたその豚カツの油を切っていると、タイミングよく引き戸を開けて顔をのぞかせた最初の客が、苑子であった。こうして映画は、大団円となって終わる。
エンタメ性の基礎を忘れず、いろいろな映画素材に左右されず、揚太郎が意志を貫くという筋書きですっきりまとめられている、すばらしい映画だ。
うまい豚カツが食べたくなるし、久しぶりに踊りたくなる映画だ。
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