映画 『シェフ!〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜』

監督:ダニエル・コーエン、脚本:ダニエル・コーエン、オリヴィエ・ダザ、撮影:ロベール・フレース、編集:ジェラルディーヌ・レティフ、音楽:ニコラ・ピオヴァーニ、主演:ジャン・レノ、ミカエル・ユーン、2012年、85分、フランス映画、原題:Comme un chef


アレクサンドル・ラガルド(ジャン・レノ)は、パリの三ツ星レストラン「カルゴ・ラガルド」のシェフで、その卓越した料理にはファンも多く、自身の出る料理番組ももっていた。だが、このレストランの社長で年下のスタニスラス・マテール(ジュリアン・ボワッスリエ)は、ラガルドの料理を、伝統的な味付けばかりで現代のレストランには時代遅れであるとし、次の料理研究家の審査で星を失うようなことになれば解雇する、と伝える。

一方、料理人のジャッキー・ボノ(ミカエル・ユーン)は、ラガルド含め多くの有名シェフのレシピを完璧に暗記しており、自身を天才料理人と自負していたが、料理への細かいこだわりから、客や同僚と頻繁にトラブルを起こし、いま勤めているレストランもクビになってしまった。ジャッキーには恋人ベアトリス(ラファエル・アゴゲ)がいて身ごもっていることもあり、無職ではいられず、料理人をやめてペンキ職人として働き始める。

老人ホームの窓にペンキを塗る仕事であったが、窓からは厨房が見えた。素材に対する3人の料理人の料理方法が違っているのを窓から見ていたジャッキーは、我慢ならず窓から厨房に入り、料理を手ほどきする。ジャッキーが自信満々で作った料理であったが、老人たちには不評であった。

マテールは、ラガルドの手足となるはずの弟子二人をよそのレストランに回し、いよいよラガルドの孤立を目論んだが、ラガルドは、老人ホームで作られたジャッキーの料理を食べてみて、自身の味付けを踏襲しているのを知り、自分の助手にならないかと声をかける。ジャッキーは喜んで引き受けたが、本当に就職できるかわからなかったので、ベアトリスにはこのことをすぐには知らせなかった。・・・・・・


短い映画だが、料理人のこだわりをテーマとしたコメディタッチの佳作に仕上がっている。

ラガルドとジャッキーは、料理に対するジャッキーのこだわりから、初めは何かと衝突することもあったが、ジャッキーはラガルドを尊敬すしていることには変わりなかった。そして、マテールの考えは間違っていることでは一致し、審査前には、老人ホームにいた3人の料理人を含め、厨房の中全体が二人に協力し合う体勢となっていく。


マテールが推奨する味付けや料理を知るため、彼が贔屓にする敵方のレストランに、二人がお忍びで客として食事をしにいくシーンは滑稽だ。自分たち二人は顔を知られているので、それはできないというラガルドに対し、ジャッキーは、老人ホームにいた料理人のうちひとりチャン(ヴァン・ヘイ・ミーン)が、以前メイクアップの仕事をしていたことがあることを思い出す。化粧のシーンはなく、いきなり敵方のレストランに入るシーンとなる。二人は、鬘も付け、武士と花魁の恰好をし、受付で日本語も交えた挨拶をする。


ジャッキーは、ラガルドのもとで働いていることをベアトリスに隠していたが、あるときそれがバレてしまう。ラガルドは、大学生の一人娘アマンディーヌ(サロメ・ステヴナン)の論文審査会に臨席すると言いつつ、店や自身がてんてこ舞いだったため、忘れてちしまう。これら不安への材料は、ラストに向け、修復されていく。放たれた不安な要素は、うまく行くほうに回収され、レストラン「カルゴ・ラガルド」の三ツ星は維持され、ジャッキーが新たなシェフとなり、そこを引退したラガルドは、他の店の美人経営者の元でシェフを務めることになる。こうして、すべて円満にめでたしめでたし終わる。


ジャン・レノのシェフ姿は、けっこう似合っている。役者の演技のほか、さまざまな料理を目にすることもでき、厨房のようすも見ることができ、小品だが楽しい映画となっている。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。