監督・脚本:パティ・ジェンキンス、撮影:スティーヴン・バーンスタイン、編集:アーサー・コバーン、ジェーン・カーソン、音楽:BT、主演:シャーリーズ・セロン、2003年、109分、配給:ニューマーケット・フィルムズ、原題:Monster
冒頭に「事実に基づく話」と出るように、実在した娼婦の連続殺人犯、アイリーン・ウォーノスの生涯をモデルとしている。
アイリーン(シャーリーズ・セロン)は、ふと立ち寄ったバーで、同性愛者のセルビー(クリスティーナ・リッチ)と出会う。セルビーは彼女のことが好きになるが、アイリーンは同性愛者でないので、初めは相手にしなかった。だが、セルビーのへやに泊ったり一緒に行動したりするうち、アイリーンもセルビーを好きになっていく。家にいても両親の干渉を煩わしく感じていたセルビーは、アイリーンの誘いに乗り、モテルで二人だけの生活をスタートさせる。しかし、アイリーンに定職があるわけでもなく、かつかつの生活を送るなかで、彼女なりに仕事探しをするが、本人の無茶ぶりや気性の激しさから、どこにも勤めることができず、やはりまた娼婦稼業に戻ってしまう。
ある晩、客の車に乗ると、かなり山奥まで連れていかれる。その客はすぐに行為に及ばず、いきなりアイリーンを殴りつけた。気を失っている間にロープで両手を結ばれたが、隙をみて振りほどき、逆に男に反撃し、ついに射殺してしまう。殺害後、アイリーンは狂ったように泣き喚くが、その後素知らぬふりをして、セルビーの元に戻る。・・・・・・
シャーリーズ・セロンが10kg以上太り、全編ノーメイクまたは老けメイクで臨んでいる。子供時代からの劣悪な環境もあり娼婦としてしか生きていけず、しかも時々の理由は別々であるにしても、大声の出し方や罵詈雑言の吐き方含め、次々に男を殺す極悪非道なモンスター女をみごとに演じている。セルビー役のクリスティーナ・リッチも、かわいげのある容姿にしてはアンバランスなほど骨格のよいからだつきで、役柄にぴったりだ。
この二人を中心にストーリーは展開するが、主役のキャラクターがキャラクターだけに、「実在の人間をモデルにした映画」以上の何ものもない。アイリーンの台詞にもあるように、娼婦は娼婦であるというだけで、すでに一般社会からは底辺扱いされ、まして、アイリーンが被害者の度合いの強い場合でも、殺しをしていることから、ほとんど彼女に同情もできない。
他方、一度目の殺人に顕著なように、仕返しをしなければ殺される可能性もあり、金銭と引き換えに個人で商売する女には、それを買うほうの男ともども、現場での危険というものがある。コトの後、警察に、正当防衛だったと自首するようなキャラクターでは、これも映画の題材とはならない。
セルビーとその母が話すシーンがある。母はセルビーの同性愛的傾向を認めているが、アイリーンのような女と付き合うのはやめなさいと諭していた一方で、セルビーの決心に抗うこともできない、と、それ以上の説得を諦めてしまう。セルビーはまた、アイリーンとの生活に戻っていく。
セルビーはアイリーンより年も若く、まだ子供で無茶なこともするが、大切に思うアイリーンの言うことに、最後は従うのである。ただ、そのセルビーも、アイリーンが捕まり、裁判になってからは、証人として法廷に立つ。拘置中のアイリーンとセルビーとの電話での会話は、セルビーのわきで検察が聞いており、いわば司法取引によりセルビーは罪を免れる。これは、二人がもう会わないだろうと別れるとき、バス停のわきで、アイリーンが言ったとおりのことであった。アイリーンは、どんなことになっても、セルビーだけは巻き込むようにはしない、と言っていた。
最後には、アイリーンは完全に孤立無援になってしまい、裁判長や陪審員に暴言を吐いて、法廷を後にする。犯罪者としては法の下に裁かれた結果であるが、アイリーンの胸中には、こんな自分にした幼少期の回想や、自分に暴力を振るった男が悪いといった気持ちは蟠(わだかま)っていたはずだ。
バス停で泣きじゃくりながらセルビーに懺悔したとき、自分で自分が許せない、とも言っている。心神耗弱などといった手段で、いかにして死刑だけは免れたい、という被告人や弁護士もいるなかで、やったことはやったこととし、正々堂々と刑罰を受けるために去って行くアイリーンの姿が印象に残る。法廷から奥のへやへと去っていくとき、一度アイリーンが振り返る。この演出は効いている。
当然ながら、ほとんどのシーンでシャーリーズ・セロンが映っている。底辺で必死に稼ごうとするどうしようもない女を、表情だけでなく、全身を使って演じている。セルビーとはとしばしば喧嘩をするが、それでもセルビーだけは大事にし続けるという役柄は難しかったのではないか。自分に落ち度や劣等意識があっても、気持ちの通じた大切な相手にだけは、最後まで自分流の愛を貫いたのである。女優は、きれいどころと汚れ役双方を演じて女優になる、という。
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