映画 『歌麿をめぐる五人の女』

監督:溝口健二、脚本:依田義賢、原作:邦枝完二、小説 『歌麿をめぐる女達』、撮影:三木滋人、美術:本木勇、編集:宮本信太郎、音楽:大沢寿人、望月太明吉、時代考証:甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと)、主演:六代目・坂東簑助、1946年(昭和21年)12月、95分、撮影所:松竹京都、配給:松竹、


幕府の御用絵師、狩野瑩川院の門弟・小出勢之助(坂東好太郎)は、許婚の雪江(大原英子)を連れて錦絵を売る店に立ち寄る。そこで、著名な絵師・喜多川歌麿(六代目・坂東簑助)の絵の一枚に、狩野家を侮蔑するような言葉を見出し立腹する。歌麿に事情を聞こうと、歌麿が出入りするという茶屋・大文字屋に行き、外出から帰ってきた歌麿に迫る。歌麿は、同じ絵師同士なら絵で勝負しよう、という。勢之助は、歌麿が自分の絵に書き足した絵を見て、とてもかなわないと思い、結果的に歌麿の門下に入る。

浅草観音前の水茶屋・難波屋の娘おきた(田中絹代)は、歌麿に描いてもらった一枚の絵のおかげで、その名がたちまち江戸中に知れ渡っていた。彼女は紙問屋の息子・庄三郎(中村正太郎 )に激しい恋をしていた。ちょうど勢之助と歌麿が家で談じ合っている矢先、庄三郎が花魁・多賀袖太夫(飯塚敏子)と駈け落ちして行方不明になったということを瓦版で知る。おきたはひと月あまりもあちこちを探すうち、佐原に二人を見つけ、駕籠屋に頼んで庄三郎を浅草まで連れ戻す。・・・・・・


冒頭に、花魁道中の光景が流され、ラストは、庄三郎と多賀袖を刺し殺したおきたのシークエンスで終わる。今の映画と違い、台詞によって次のシーンへと遊びなく進んでいくため、出演陣の多いこともあり、ぼっうと見ていると混乱してしまうだろう。


歌麿の仕事ぶりに加え、おきたという女がその意気地をもって貫いた恋の行く末や、勢之助の恋路を重ねて描いている。1時間半にぎっしり詰まったストーリー展開で、そこに登場する女たちの男に対する思いや悲劇、嫉妬心ややるせなさを盛り込んでいる。

カメラはほとんどが固定であり、ポイントごとにわりと長く撮られている。そこに演技達者な役者陣の身振りや台詞が加わる。


歌麿の台詞、「人の肌に筆を下ろす」など、日本語の美しい表現・言葉遣いにも注目しておきたい。

敗戦後、米軍が日本を占領しているころに京都で撮られた貴重な映像である。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。