映画 『摩天楼を夢みて』

監督:ジェームズ・フォーリー、脚本:デヴィッド・マメット、原作:デヴィッド・マメット『グレンギャリー・グレンロス』、撮影:フアン・ルイス・アンチア、編集:ハワード・E・スミス、音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード、主演:ジャック・レモン、アル・パチーノ、1992年、100分、配給:ニュー・ライン・シネマ、原題:Glengarry Glen Ross


ピューリッツアー賞を受賞した劇作家デヴィッド・マメットの『グレンギャリー・グレン・ロス』(1984年)を映画化した作品。デヴィッド・マメット自身が脚本も書き、原作にはなかったブレイク(アレック・ボールドウィン)を登場させている。これにより、映画としての「入り」の部分が鮮明になった、とジャック・レモンは述べている。


ニューヨークの下町にある不動産屋が舞台。この会社は、同業他社以上に業績主義が厳しい上に、顧客との契約をとり優秀な社員には、さらに優良な顧客の情報が提供されるが、成績不振者には、ロクでもない客の情報しか与えられない。タイトルのグレンギャリー・グレンロスとは、その優良顧客情報のひとつである。

雨の降る夜、四人の社員のうち、成績優秀で外に飲みに出たままのリッキー・ローマ(アル・パチーノ)を除くシェリー・レーヴィン(ジャック・レモン)、デイヴ・モス(エド・ハリス)、ジョージ・アーロナウ(アラン・アーキン)が残る事務所に、本社から幹部のブレイク(アレック・ボールドウィン)がやってきて、大いにハッパをかける。ローマ以外の3人は、なかなか契約をとれずにいたからである。イヤミとも暴言とも言える言葉を怒鳴り散らし、こんなどしゃ降りでも外回りして来い、と3人に命じる。

3人はそれぞれ口答えするが、それぞれにようやく外出する。レーヴィンは、支社長ジョン・ウィリアムソン(ケヴィン・スペイシー)に、優良顧客情報を内緒で渡してくれ、と頼むが断られる。他方、モスは、このままでは成績が上がらないと踏み、アーロナウに、ある計画を持ちかける。・・・・・・


『ゴッドファーザー PART III』(1990年)と『カリートの道』(1993年)の間に、アル・パチーノがこんな作品に出ていたとは知らなかった。ジャック・レモンはじめ、名だたる俳優の演技合戦は観ていておもしろい。本作品は、うだつの上がらないセールスマンを描いているが、うまくいった者とうまくいっていない者との対比が明確で、それもまた契約のとれぐあいで立場が入れ替わる。会話が中心であり、一人物思いにふけるシーンなどなく、バーや車内以外は、すべてこの事務所内が舞台で、ややもすると映像的に飽きがちになるストーリー展開を、カメラワークと俳優の演技力で凌ぐことができている。


デヴィッド・マメットは、脚本家として『評決』(1982年)、『アンタッチャブル』(1987年)の脚本も書いている。会話の密度が濃くなっていくシーンにおいて、そのシーンを一定のテーマに絞り、やがて最後に、決め台詞がズバリと出てくるようなシークエンスがうまい。 本作品においても、いくつかのテーマごとに、二人乃至三人ほどの会話がなされるが、ツボを心得たかのような台詞と「そのシーンの終わり」が用意されている。


カメラワークは、事実上のワンステージものだから、アングルやカットに凝るのがふつうだが、本作ではさほど細かに分断せず、わりと長くもたせて、土壇場で話し手交互のカットをつないでいる。それで違和感が生じないのは、もともとこの事務所内が広めにつくられており、それぞれのデスクが、まるでコロナ禍に支配された現在の職場のように、かなり離して置いてあるからだろう。


音楽はジェームズ・ニュートン・ハワードで、このあと、『フォーリング・ダウン』(1993年)、『逃亡者』(1993年)などを担当することになる。タイトルバックはなかなかしゃれている。列車の通過する音に、ジャズがかぶってくる。こんなのどかなジャズにだぶる列車の音が、これからのドラマを暗示しているのだろうか。そして、レーヴィンが受話器を抱くようにして話すファーストシーンへと続くのだ。


舞台劇の映画化、ワンステージものは、基本、会話劇になるので、カメラが外に出ず、背景に飽きがくる場合も多い。会話のテーマがその前のテーマを超えてかぶさり、役者たちの演技が絡み合い、カメラワークとフレームどりが適確であれば、そういうことにはならない。

中高年の男しか登場せず、サラリーマンの悲哀やぎりぎりの仕事ぶりを描き切った作品であるが、エンタメ性も保たれた作品に仕上がっている。


本作品があることを知らず(タイトルくらいはどこかで視野にしていたかも知れないが)、最近、映画好きの高校生におしえてもらったものだ。大変ありがたい。彼のこの作品に対する論評をみた。映画を<見るセンス>があると思う。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。