映画 『ラスト・ラン/殺しの一匹狼』

監督:リチャード・フライシャー、脚本:アラン・シャープ、製作:カーター・デヘイヴン、撮影:スヴェン・ニクヴィスト、編集:ラッセル・ロイド、音楽:ジェリー・ゴールドスミス、主演:ジョージ・C・スコット、1971年、96分、原題: The Last Run


話は、ポルトガルのアルブフェイラという、のどかな海岸沿いの町から始まる。

かつてシカゴの犯罪組織で運転手役を務めていたハリー・ガームス(ジョージ・C・スコット)は、一人息子を亡くし、妻は家を出て行き、車をいじり、ドライブする余生を送っていた。ガームスは、9年ぶりに運び屋の仕事を請け負う。それは、脱獄囚ポール・リッカード(トニー・ムサンテ)とその恋人クローディー・シェラー(トリッシュ・ヴァン・ディヴァー)の逃亡を手助けする、というものだった。道中いろいろあったものの、ガームスは無事に二人を、フランスのペルピニャンという街へ送り届けたが、先回りしていた組織の殺し屋が二人を襲う。危機一髪のところでガームスは二人を救う。ガームスは二人を彼の漁船でアフリカへ送ることにするため、アルブフェイラに戻ることにする。・・・・・・


『ミクロの決死圏』(1966年)や『絞殺魔』(1968年)で知られるリチャード・フライシャーが、『トラ・トラ・トラ!』(1970年)の翌年に制作した作品。撮影時、ジョージ・C・スコットは43歳、とまだ若いが、引退した裏社会の男を渋味をもって演じている。事実上トム・クルーズの本格的デビュー作となる、『タップス』(1981年)での将軍役が印象的だった。


映画としてほぼ通常の尺だが、ムダのない脚本でぐいぐい引っ張っていかれる。アクションシーンなどを適切な位置に仕込み、それ以外の静かなやりとりのシーンでも、建設的にストーリーが進むよう台詞ややりとりが洗練されている。

ファーストシーンで、愛車をいじるガームスが映され、次にはその車で、海岸通りを猛スピードでドライブするシーンがくる。風光明媚な海岸線を疾駆するオープンカーのシーンは、何度かに分け映され、カメラもさまざまなアングルや距離から撮り、導入部且つ前置きとして充分だ。


ガームスと二人の道中でのやりとりを挟み、ラストへと向かうが、ガームスとクローディーの淡い恋のエピソードが挿入され、単に時間を追うストーリーにさせていない。二人を船に乗せたところで、ガームスは、追ってきた殺し屋の銃弾に倒れる。ラストとしては、ふつうに見れば、ハッピーエンディングではないが、このストーリーのラストにふさわしい。殺されてかわいそうだとか悲しいとかいう感情は起きない。ガームスは、裏社会で生きていた男として、それにふさわしい生涯を終えたのである。時折、亡き息子の墓に、花を手向けに行くが、その息子にあの世で再会することになるのである。


撮影は、『処女の泉』(1960年)、『沈黙』(1963年)、『仮面/ペルソナ』(1966年)などイングマール・ベルイマン作品で知られるスヴェン・ニクヴィスト。脚本、カメラワーク、そしてジェリー・ゴールドスミスの音楽が、みごとに結晶した逸品だ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。