映画 『切腹』

監督:小林正樹、脚本:橋本忍、原作:滝口康彦(『異聞浪人記』より)、撮影:宮島義勇、編集:相良久、美術:戸田重昌、大角純平、録音:西崎英雄、照明:蒲原正次郎、音楽:武満徹、主演:仲代達矢、1962年、133分、配給:松竹


1630年(寛永7年)5月13日、井伊家の江戸屋敷に、安芸広島福島家元家臣、津雲半四郎(つくも・はんしろう、仲代達矢)と名乗る浪人が訪ねてくる。半四郎は井伊家の家老である斎藤勘解由(さいとう・かげゆ、三國連太郎)に、「仕官もままならず生活も苦しいので、このまま生き恥を晒すよりは武士らしく、潔く切腹したい。ついては屋敷の玄関先を借りたい」と申し出た。不審に思った勘解由は半四郎に会い、先日、同じように申し出てきた千々岩求女(ちぢいわ・もとめ、石濱朗)という若い浪人を、庭先で本当に切腹させるという挙に出たことを話し始める。

千々岩求女が「切腹のために、玄関先を借りたい」と申し出てきた。これは当時、江戸市中に満ち溢れた食い詰め浪人によって横行していたゆすりの手法であった。それを見抜いた勘解由や沢潟彦九郎(おもだか・ひこくろう、丹波哲郎)は、金品を与えて返さず、求女の申し出を真に受けたこととし、申し出どおり切腹させるように仕向ける。求女は当初から本当に切腹するつもりではなかったので、脇差をもたず、持参したのは竹光だけであった。結果的に、竹光で腹を切らされることになる。

その話を聞いた半四郎は、白洲の庭に招き入れられ切腹の準備が整ったところで、勘解由はじめ一同の集まったところで、実は、自分は求女という男をよく知っている、と告げる。求女は半四郎の娘・美保(岩下志麻)を妻としているため、求女は半四郎の娘婿であったのだ。・・・・・・


全編にわたり、ムダのない台詞、緊迫感を持続させるフレームとカメラワークで、求女や、病死した美保と孫娘の無念を晴らそうとする半四郎の心意気と、躍起になって武家の対面を守ろうとする勘解由の必死さとの対峙を際立たせている。

回想シーンの挿入も、ストーリー上、実に有意味であり、半四郎と彦九郎の対決シーン、ラストに向けての半四郎と井伊家家臣との殺陣もみごとである。

武満徹による音楽も効果的で、戦後日本の映画史に残る傑作となった。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。