監督:野村芳太郎、脚本:橋本忍、原作:松本清張『潜在光景』、撮影:川又昂、編集:浜村義康、美術:重田重盛、録音:栗田周十郎、照明:三浦礼、音楽:芥川也寸志、主演:加藤剛、岩下志麻、小川真由美、1970年、98分、カラー、配給:松竹
旅行代理店に勤める浜島幸雄(加藤剛)は、自宅への帰途、バスの中で小磯泰子(岩下志麻)に声をかけられる。二人は、以前、千葉県千倉町で、近所同士だったのだ。その後、再び偶然、帰りのバスで二人は会い、泰子は浜島を自宅に誘う。泰子は夫に先立たれ、6歳の息子・健一(岡本久人)と二人暮らしで、仕事は保険会社の外交員であった。浜島の家は、泰子の降りるバス停より先で下車したところにある団地であった。妻・啓子(小川真由美)は、フラワー教室の先生で、時々その生徒である近隣の主婦が自宅に集い、花のアレンジを披露し合うなど賑やかであった。子のない浜島夫婦は倦怠期を迎えており、妻のサークルに馴染めない浜島は徐々に泰子に惹かれ、次第に頻繁に泰子の自宅に行く。啓子には嘘をつき、泰子親子とドライブに行ったり、一泊の出張と偽って泰子の家に泊まったりしていた。人見知りをする健一も、いっしょにプラモデルをつくったり勉強したりするうち、だんだんと浜島に慣れてきたが、逆に敵意を見せるときもあった。・・・・・・
不倫ドラマであるが、母を訪ねてくる父親でない男に対し、子供が敵意をもち、それが土壇場で事件の引き金になるというところが個性的なストーリーだ。実は、浜島自身が健一と同い年ころ、似たような境遇を経験していた。父を亡くした浜島は、おじ(滝田裕介)がしばしば自宅に来て、母親(岩崎加根子)と親しいのは知っていた。当時の自身の経験からして、いまの健一の気持ちがわからないでもない。だが、浜島の泰子を思う気持ちは強く、それは泰子も同じであった。
浜島の記憶による思い出のシーン、即ち、浜島の子供のころのシーンが、いわゆる潜在光景ということで、思い出のカットは故意にざらついた画像処理をしている。これに対し、現在のほうは、いかにも高度経済成長を象徴させる東急都市線、団地、造成工事など当時の素材をうまく使っている。
ラストはバッドエンドで、浜島、泰子、憲一、啓子ともども、予測不能な事態へと導かれてしまう。拘置所で浜島が、刑事(芦田伸介)の厳しい追及に反論しながら自らの過去の過ちを思い出すとき、窓の向こうに見るのは、枝に止まった二羽の烏であった。
いかなる素材からもサスペンスを作ることは可能で、こういう題材もまたサスペンスになりうるということを知らしめた作品だろう。本編の前に、子はいるものの女一人で生きている泰子のけなげさ・寂しさ・孤独感などが表わされていてもよかった。泰子の亡き夫については、親子三人の写真が飾ってあり、浜島もそれに目を遣るだけに終わらせている。
0コメント