監督:ルカ・グァダニーノ、脚本:ジェームズ・アイヴォリー、原作:アンドレ・アシマン『Call Me by Your Name』、撮影:サヨムプー・ムックディプローム、編集:ヴァルテル・ファサーノ、音楽:スフィアン・スティーヴンス、主演:ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー、2017年、130分、伊・仏・伯・米合作、英語(会話中に伊語、仏語あり)、配給:ソニー・ピクチャーズ・クラシックス、原題:Call Me By Your Name
1983年夏、北イタリア某所にある大学教授パールマン(マイケル・スタールバーグ)の別荘が舞台。パールマンは、博士課程論文を執筆中の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)を、アシスタントとして別荘に招待する。別荘には、パールマンの妻アネラ(アミラ・カサール)と17歳の高校生エリオ(ティモシー・シャラメ)、その他使用人が何人かいる。庭は果樹園となっており、そばに小さなプールもある。
オリヴァーの寝起きするへやは本来エリオのへやで、エリオは浴室を挟んだ反対側のへやに移った。食事や自由な時間にオリヴァーと話すうち、エリオは徐々にオリヴァーに惹かれていく。・・・・・・
男子高校生と30歳の男のひと夏の恋愛談ではあるが、情欲にかかわる描写はぎりぎりに抑えられ、両者の純粋な気持ちを前面に押し出したつくりとなっている。
パールマンは考古学の教授であり、オリヴァーも学識のある研究者だ。エリオは父の影響でいろいろな雑学の知識もあり、ピアノやギターも弾け、本を読むことが好き、という設定だ。タイトルバックには、ギリシア彫刻のカット写真が使われいている。
前半に、バレーボールのシーンで、オリヴァーがエリオの肩に触れるシーンがあり、それより前、食事中に、エリオがオリヴァーの胸元に注目するシーンもある。かなり早い段階で、そうした展開になることが予想される。オリヴァーはエリオの気持ちに気付いており、初めてエリオがその気持ちを告白しようとするとき、あえて、そうしたことは口にしないほうがいいよ、と諭す。このシーンはちょうど中盤に現れ、本作品唯一のパンつづきの長回しで撮られている。
オリヴァーは、内にゲイの傾向をもちながらも、エリオの思いをうまく利用して、性欲発散のためにエリオを弄ぶ、などということはしない。エリオの純粋な気持ちを尊重し大切に思いつつ、心的身体的距離を縮めていくのである。
二人にキスしたり抱擁したりするシーンはあるが、初めての戯れは暗示されるだけだ。翌日、ベッドの上でエリオは、庭で捥いできたスモモを食べるついでに、スモモの尻の部分を指で何度も刺し、その穴の部分にペニスを入れ自慰をする。その夜そこに来たオリヴァーにスモモが見つかり、それを食べようとするとエリオは恥ずかしがり、笑いながら拒否する。こうしたエピソードを含みながら、二人は本当の恋人同士になっていくプロセスが語られる。
タイトルは、本編中の台詞そのままだ。君の名前で僕を呼ぶ、とは、二人が裸でベッドにいるシーンで、オリヴァーから囁かれる。エリオは、好きなオリヴァーを、「エリオ!」と呼び、つづいてオリヴァーはエリオに対し、「オリヴァー!」と呼びかけて、互いに笑う。このアイデアは、男同士の窮極の愛のカタチを表現するものとしてうまい。その後も、山歩きのシーンでも、互いをこう呼ぶのであった。
そして予想どおりに悲劇はやってくる。オリヴァーは列車で去って行く。実際にエリオが涙を流すのは、それからだいぶ月日の流れた日の晩、暖炉の前でであった。
エリオの両親はある日、高齢の男性二人を食事に招待する。この二人はゲイである。両親はゲイに対し偏見もなく、エリオがオリヴァーを好きになったことも知り、それを否定するわけでもなく、オリヴァーが去る最後の一日を、わざわざエリオといっしょに過ごさせるような寛大さも持ち合わせている。この両親がなければ、このストーリーそのものが成り立たなかっただろう。
季節が過ぎ、雪舞う日のある晩、エリオが電話に出ると、オリヴァーからであった。オリヴァーは結婚することになったと言う。落ち込むエリオに対し、パールマンは、人生や愛について、エリオに懇々と話す。それは教訓やら押し付けではなく、純粋に父として、人生の先輩としての語りかけであった。実はパールマン自身も、結婚以前に、似た経験のあることを明かす。それはアネラも知らないことであるようだ。
映画の登場人物として、それまでほとんど役回りのなかったパールマンであるが、ここへきて重要な役割を果たす。
17歳の青年のひと夏の恋物語であり、エリオにとって青春の1ページとなる夏のひとときであった。
本作品は、ゲイであるとか年齢の差とかいったことを超え、人間同士が人を好きになることの真髄を顕著にした作品である。
カメラは、イタリアの地方都市の街並みをはじめ、風光明媚な山、川、湖、滝をとらえる。二人が登る山々に霧がかかっているシーンは印象的だ。中盤の長回しのシーンも印象的だ。言いたいのに言い出せず、そこにまた発言しないほうがいいというオリヴァーに言葉があり、エリオの心が吃ったように閉じる注目のシーンだ。
エリオ役のティモシー・シャラメの力を抜いた自然な演技はよかった。角度によってさまざまな表情を見せる目や容姿は、本作品に打ってつけだ。ラストシーンは、もう一つの長回しだ。エンドロールのかぶるこの定点長回しでの演技は、俳優として大変だったろうが、エリオのそのときの心中をみごとに表現できていると思う。
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