監督:アレックス・シーガル、脚本:シリル・ヒューム、リチャード・メイボーム、撮影:アーサー・E・アーリング、編集:フェリス・ウェブスター、音楽:ジェフ・アレクサンダー、主演:グレン・フォード、ドナ・リード、1956年、102分、アメリカ映画、配給:MGM、原題:Ransom !(=身代金)
掃除機のトップメイカーであるスタナード社の社長デイヴィド・スタナード(グレン・フォード)は、妻イディス(ドナ・リード)と腕白坊主のアンディ(ボビー・クラーク)との三人家族である。
アンディが小さな小屋を手作りで作るというので、デイヴィドはいつもより早く帰宅して、一緒に作ろうということになった。帰宅したデイヴィッドは、息子がなかなか帰らないので心配していたところ、学校から電話が入った。イディスが出ると、女校長からで、アンディの具合が悪くなったとのことで、学校の看護師が病院に連れて行った、という。デイヴィッドが病院に電話すると、アンディは来ていないとのことで、そこで初めて、アンディは誘拐されたことに気付く。夫婦は地元の警察署長バケット(ロバート・キース)に電話し、捜査が開始されるが・・・・・・。
誘拐事件をテーマとしているが、犯人の姿も声も出てこない。一度だけデイヴィッドが犯人からの電話に出るが、声はミュートにしている。誘拐犯と誘拐された側のドラマ、つまり犯人と夫婦のドラマではなく、スタナード家、さらにはデイヴィッドが中心のつくりとなっている。
身代金を払ったら確実に息子が解放されるわけではなく、身代金を払っても、すでに息子は殺されているかも知れない。逆に、身代金を払わなければ、息子は殺される可能性が高い。署長やその他周囲の人物の考えや意見がストーリー上で展開されたあと、デイヴィッドは勇猛果敢な決断を下す。つまり、身代金を払わなければ、犯人は怖じ気づき、息子を解放するだろう、という決断だ。今までの誘拐事件では、身代金を払ったがために、こうして誘拐事件は後を絶たない、払ったとしても人質は殺されるかも知れない、それなら、息子の解放に賭けてみるという決断だった。無論、周囲は反対し、イディスにも罵られた。
犯人とのやりとりで進むドラマではなく、邸宅内にあるデイヴィッドの苦悩と奮闘がテーマとなっている。多分に退屈な展開になりそうだが、微妙なシーンの転換やストーリーの展開と巧みなカメラワークにより、観る側を飽きさせない。
小さな町の著名な邸宅での出来事であり、マスメディアや近隣の人々も喧(かまびす)しい。そんななか、デイヴィッドにできることは、冷静に犯人と向き合うことでしかなかった。
身代金が用意されたら、会社がスポンサーになっている番組の司会者に、白い上着を着せることで、犯人にそれを伝えることになっていたが、デイヴィッドは上のように決心したことから、土壇場でその犯人へのメッセージを取り消し、司会者にはいつもの服装をさせ、デイヴィッド自らが、カメラの前に立つ。そこで、犯人に向け、自らの考えを熱心に伝える。このとき、数回、デイヴィッドの話す画面をテレビで見る犯人を映すが、暗い足元だけである。このデイヴィッドのうったえかけのシーンは、本作品の圧巻となっている。
それでも、結局、事態は全く動かず、デイヴィッド自身も落胆し、それまで張りつめていた緊張感が消えて、泣き崩れる。このあたりのグレン・フォードの演技はすばらしい。
DVDで観ているから、残り時間が少なくなり、もしやと思うことができるのだが、予想どおり、アンディが無事で現われ、親子三人は抱き締め合うのであった。デイヴィッドの信念が、犯人の思惑に優った瞬間である。
執事チャップマン役のホアノ・エルナンデス(Juano Hernandez)が、いい味を添えている。
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