映画 『空中ブランコ』

監督:キャロル・リード、脚本:ジェームズ・R・ウェッブ、リーアム・オブライエン、製作:ジェームズ・ヒル、撮影:ロバート・クラスカー、音楽:マルコム・アーノルド、主演:バート・ランカスター、トニー・カーティス、ジーナ・ロロブリジーダ、1956年、106分、アメリカ映画、配給 ユナイテッド・アーティスツ、原題:Trapeze(=空中ブランコ)


かつて、高校生のころ、テレビの『日曜洋画劇場』で見たものを、こうして何十年か後にDVDで見ることができて、とてもうれしい。印象的な台詞は覚えていて、ああ、このシーンだったのか、と感激も一入だ。


バート・ランカスター、42歳、トニー・カーティス、31歳、ジーナ・ロロブリジーダ、28歳のときの作品。

 

パリのサーカス会場に、マイク(バート・ランカスター)を尋ね、ニューヨークからティノ・オッシーニ(トニー・カーティス)がやってくる。

空中ブランコでは難易度の高い三回転という技があった。片側から飛んできた方が、ブランコが互いに近付いた瞬間、受け手の両腕に飛び移る演技のうち、空中で三回転して飛び移るものであった。二回転まではできる者が多かったが、三回転は至難の技とされており、マイク自身も失敗して落下し、右足首を捻挫し、今も松葉杖をついているありさまであった。これは、タイトルバックまでに冒頭エピソードとして描写されている。

ティノは父親からマイクのことを聞き、三回転をやるには、マイクと組むしかないと決心し、はるばるマイクを訪ねてきたのであった。初めのうちマイクは、三回転などそう簡単にできるものではない、とティノを突き放すが、ティノの運動神経のよさを見抜き、厳しい練習の日々が始まった。

一方、サーカス団には、ローラ(ジーナ・ロロブリジーダ)という、空中ブランコはある程度できる踊り子がいた。二人に接するうちに、徐々にローラはティノやマイクに惹かれていく。・・・・・・


『第三の男』(1949年)と同じ監督の作品とは思えない(笑)。

しかし、やはり構成はしっかりしている。映画としてのストーリーの運びが、一定の速度を保っている。それに、映画として(=スクリーンで見るものとして)、空中ブランコのシーンなどふんだんに入れられ、エンタメ性も充分だ。


ランカスターには空中アクロバットの経験が多少あるとはいえ、主演三人も、かなり練習したと思われるが、俳優で不可能な部分は、プロのスタントが代役しており、それら両者を実にうまく編集でつないでいる。代役が回転したあとに主演俳優がすっとわきから現われるシーンも、いかにも同一人物であるようにつなげているわけで、そういった撮影現場・編集現場を想像するととても楽しい。


マイクの性格やローラの女心の描写は、なかなか映像の移り変わりで描くのは難しかったと思われるが、細やかな演出と、おそらくは何度も校正した台本が功を奏した。脚本に二人いることからもわかる。

音楽担当のマルコム・アーノルドは、交響曲の作曲家でもあり、効果的な音入れを果たしている。


注目すべき人物は、ローザ(ケティ・フラド)であろう。現在は、同じサーカス小屋にいる他の男と一緒になっているが、かつてマイクのことを好きだったのは明らかだ。このローザの言葉が、ずっと私の記憶に残っていたのだ。マイクが、ローラの心はティノに傾いていくのかと思案するのに対し、こう言うのだった。

ローザ「ローラが愛しているのは、あなた(マイク)よ。」

マイク「どうしてそんなことがわかる?」

ローザ「あたしも似た経験をしているから。」


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。