映画 『バルカン超特急』

監督:アルフレッド・ヒッチコック、脚本:シドニー・ギリアット、フランク・ラウンダー、アルマ・レヴィル(撮影用台本)、原作:エセル・リナ・ホワイト『The Wheel Spins』、撮影:ジャック・コックス、編集:R・E・ディアリング、音楽:ルイス・レヴィ、チャールズ・ウィリアムズ、主演:マーガレット・ロックウッド、1938年、97分、米英合作、配給:メトロ・ゴールドウィン・メイヤー、20世紀フォックス、原題:The Lady Vanishes


マイケル・レッドグレイヴは、後に『回転』(1961年)の冒頭で、デボラ・カーに家庭教師の仕事を依頼する子供たちの叔父を演じている。


1938年(昭和13年の映画)製作の映画だけに、対戦前のスパイ合戦が下地になっている。タイトルから察せられるとおり、バルカン半島は「ヨーロッパの火薬庫」とも呼ばれていた。


テキパキと進行していく映画で、スパイ合戦に巻き込まれていく人々のようすをサスペンスに仕上げたヒッチコックの手腕は高く評価され、これを機に活躍の舞台をアメリカに移すことになる記念碑的作品でもある。

時代を背景にしているというなら、映画づくりそのものにも同じことが言えよう。後のヒッチコック作品にも、美しい女性が登場し、或いは、ちょっとしたユーモアや滑稽さが挿入されるが、本作品でも、シリアスな面とおかしい面が現われるとはいえ、その滑稽なほうは、ドタバタ喜劇に近く、見方によっては煩わしく非常識にも感じる。


ほとんどが走る列車内での会話劇だが、その後の映画のように、そうした場合、カメラアングルをいろいろ工夫するのだが、そういう工夫は見られない。冒頭、雪山から駅へとクローズアップする撮り方は、その後『サイコ』(1960年)の冒頭などでも取られた手法ですばらしいが、それ以外に、カメラワークでおもしろい点は少ない。

テンポよく進むだけに、画面に映る俳優が、必ず何か話すことになり、間とか沈黙といった<息抜き>のシーンがなく、言葉による話の展開が先行してしまっている。間延びするよりはいいが、当時の映画の平均的長さに合わせてしまったせいか、座りのよい映画ではなくなってしまったようだ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。