監督:権野元、脚本:江良至、撮影:葛井孝洋、編集:神谷朗、音楽:遠藤浩二、照明:石田健司、録音:飴田秀彦、美術:岩本一成、主演:長渕剛、2020年、123分、配給:REGENTS
大工の棟梁、島津組の川崎信吾(長渕剛)は、昔気質の職人であるが、お人好しで人情に厚い男。しっかり者の妻・美沙希(飯島直子)とひとり娘・柑奈(山口まゆ)と、和風の家に三人暮らしである。ある家を建築中にその現場を通りかかり、信吾に声をかけてきたのが、保険外交員の池田芽衣(広末涼子)であった。芽衣は一人息子の小学2年の龍生(りゅうせい、潤浩(ゆんほ))と二人で賃貸マンションに住んでいる。芽衣の夫は、龍生が小さいときに家を出て行ってしまっていた。
夜も仕事で外出の多い芽衣に代わり、信吾は龍生の面倒をみることにする。龍生は次第に信吾に懐く。やがて、芽衣が二週間家を空けることになるとのことで、信吾は龍生を、自宅で世話することにした。・・・・・・
信吾と芽衣の出会い方が唐突であるが、これがなければ物語は進まないので致しかたないか。その後のストーリー展開はスムーズで、難解な台詞もほとんどなく、信吾と龍生、芽衣との「共同作業」と、それを支える信吾の家族の姿勢がそれぞれに描写されていく。
龍生が家に住むことになることで、柑奈が龍生にやきもちを妬いたり、かつて信吾の元で働いて今は独立している河井高史(瑛太)との数度に渡るエピソードが、単調になりやすいストーリー展開にアクセントを置いている。こうして、ラストの「太陽の家」建築に向けてへの物語が、鮮やかに収斂していく。
カメラワークに特殊なものはないが、固定と手持ちをうまく使い分け、切り返しのタイミングや、相手の顔ともう一方の向こう向きの相手の後ろ姿のナメが、ちょうどいい位置で撮っている。ところどころに望遠での撮影も入る。信吾が龍生を、初めて公園に連れて行き、離れて座っているシーンなどだ。二人の距離感、正確には、龍生の信吾に対する距離感がそのまま表現されており、その後、滑り台では密着して滑り降りるなど、スキンシップが築かれていく。
本作品においていちばん褒められるのは、キャスティングであろう。美沙希役の飯島直子は初め、笑顔で登場し、芽衣や龍生のことがあっても、信吾に妙に拗ねたりせず、太っ腹である。さらに、龍生たちに対しいい加減なところで終えたら承知しないよ、などと信吾に檄を飛ばす。気風のいいおかみさん役を、みごとに演じている。
広末涼子はあまり好きな女優ではないが、やはり、悲しみや迷う心理などは、みごとに演じている。
注目したいのは、河井高史を演じた瑛太だ。久しぶりに姿を見たが、役柄に成り切り、ここぞというシーンでは、演技が決まり、存在ぶりをしっかりとアピールできている。
芽衣の夫役の小林且弥も、役柄にふさわしい芝居がよかった。
長渕剛は撮影時64歳だが、人のいい大工の棟梁を、表情やピチッと決めた演技で体現した。ところどころで出てくる筋トレのようなシーンでは、年を感じさせない。
ほんわかしたムードの映画であるが、作品の狙いはみごとに映像化されており、一度は観ておいてよい作品だ。日本の映画も、がんばっていることを知り、うれしく思った。
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