監督・脚本・製作:新藤兼人、撮影:三宅義行、編集:戸嶋志津子、音楽:林光、主演:西村晃、乙羽信子、1979年、116分、ATG。
1977年(昭和52年10月)に起きた開成高校生殺人事件をモデルにしている。
ひとり息子の家庭内暴力がエスカレートし、それに耐えかねた父親が息子を絞殺するが、月日の経つうち、母はそんな夫を恨み始め、最後には自殺し、父親だけが残る。何ともやりきれない話で、一片の救われようもない。
狩場勉(つとむ、狩場勉)は、有名進学高校に入学することができた。父・狩場保三(西村晃)は、通学に近くなるようにとわざわざ引っ越しをし、高校の最寄りとなる駅近くに喫茶店を構えた。古い価値観を押し付ける父親や、勉強さえできればよいという学校の方針に反発しながらも、勉は、いやいや学校に通い、日々の生活を送っていた。母・良子(乙羽信子)は、父との間に立ち、勉の気持ちに寄り添ってくれてはいた。
そのころ、務は、クラスの女性生徒・森川初子(会田初子)に好意をもつ。初めは仲良く河辺に行ったが、初子はなぜか勉を避けるようになった。初子には義理の父・森川義夫(岡田英次)がいて、四六時中、初子の体を求めてきていた。そんな状態で、勉に会いたくない、と言った。勉は初子の義父を憎み始めた。
ある日、初子から勉に電話があり、蓼科に来てほしいという。勉は母に、友達と一泊旅行すると嘘をつき、ひとり蓼科のホテルに向かう。散歩に出た二人は、まだ雪が残る木立のなか、セックスをする。初子は、義父を殺し、遺体を押入れに隠してきた、と言う。泊りがけのつもりだったが、初子は帰っていいと言う。再会を約し、言われるとおり勉は、深夜、帰宅した。ところが、翌朝のニュースで、初子が自殺したことを知り、勉は大いに混乱する。唯一、心の拠り所であった初子を失い、自暴自棄になった勉は、堰を切ったように、家庭内で、物を壊し、両親に暴力を振るうようになる。
このままでは自分たちが殺されると考えた保三は良子と相談のうえ、苦渋の選択をする。保三は、二階に行き、酒を飲んで眠っている勉を絞殺する。近隣の人々の嘆願もあり、保三は執行猶予となり帰宅する。だが、良子の気持ちは、少しずつ、保三より、死亡した勉のほうに動いており、それまでの経緯とは別に、保三をなじる。ある晩、保三が帰ると、良子は、二階の勉のへやの入口で、首を吊って死んでいた。勉の勉強机の上には、書置きがあった。
現在と過去を交互に映される。この両親にとって、勉はこの家の期待の星である。その期待こそ、勉には大きな負担である。初子とのことがあったことで、ふつうなら、それでも我慢して生活していくだろう高校生は、ついに、家庭内のものをめちゃくちゃに壊し、父母にも暴力を振るうようになってしまった。このあたりの成り行きは、テキパキ流される過去の映像で理解できる。
勉の怒りは、父親に向けられるものの、母にはすぐに向かなかった。「なぜ、あんな男と一緒になった?」などと恫喝する一方で、母を抱き締め、姦淫しようとまでする。
監督の妻である乙羽信子は、すでに名を知られた名女優でありながら、幼児の勉を風呂に入れるときには全裸のカットであり、保三との夜のまぐわいのシーンや、勉に犯されそうになるシーンでは、乳房や太腿まで映している。しかしながら、息子を溺愛する母親や、後半、息子を失ってからの保三に相対するシーンなど見ると、やはり演技派女優であると認識させられる。
勉と初子の高原でのセックスや、その後の焚火のシーン、遠くに山々を見ながら、初子が再び勉の体に跨って交わるシーンなど、青春ドラマを象徴しているようで、すがすがしい。
ストーリー上、初子の自殺が勉の鬱憤を爆発させたことになるのだが、その辺は、少々理解しにくい。実際の事件がそうだったのなら致しかたないが、映画の脚本にするからには、もう少し、合点の行くような展開にするべきだった。
また、絞殺というタイトルからして、絞殺に至るまでの経緯を、きめ細かに描き出していくのか、と思ったが、絞殺そのものは早めに終わり、あとは、回想と現実の交互描写となっている。保三のような典型的な価値観だけで出来上がった男は、わかりやすいキャラクターなので、その分、母親の心の変節に重点を置いたのだろう。
いろいろあったところで、母親としては、暴力息子であっても、自分を犯そうとした息子であっても、やはり生きていてほしかったわけであり、その気持ちは、恨みとして、保三に向けられるのである。
良子は常に和装でありながら、事件後は、しばしば、黒いサングラスをかけて出かける。冒頭に近いシーンでもサングラスをかけたまま、タクシーを乗り回し、運転手を困らせるシーンがある。
ほとんど救われようのないストーリーであるが、昭和の、ある年に、こうした事件があり、これを映画化した作品があるということで、一度は観ておいていいだろう。
西村晃の、運命に翻弄されるような初老の父親役も、めったに見ない役どころである。
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