監督:菅原伸太郎、脚本:此元和津也(このもと・かづや)、撮影:高木風太、編集:堀善介、音楽:井筒昭雄、主演:佐藤勝利、髙橋海人、モトーラ世理奈、 星田英利、2019年、120分、松竹。
多数の高校生が登校してくる。校門前では、教師の手代木(星田英利)らが、校則に則って厳しいチェックを入れている。そこに小野田創楽(そら、佐藤勝利)もやってくるが、ふと振り返ると、同じクラスの町田希央(まお、モトーラ世理奈)がつかまっていた。髪が栗毛色をしており、染色は校則違反に当たると言われている。希央は踵を返し、帰って行ってしまう。
創楽は、もともと、この学校の厳しすぎる校則に異論をもっており、希央の件をきっかけに、校則をぶち壊そうと決意する。創楽のこの気持ちを理解してくれたのは、同じクラスの月岡中弥(ちゅうや、髙橋海人)で、二人は、校則廃止という目的をもって協力していく。・・・・・・
似たようなテーマの作品は多いと思われるが、本作品のように、一人のうだつの上がらない高校生が、一人のクラスメイトの協力を得つつ、教師に対し、暴力にうったえず、喧嘩腰にならず、学校外で他人に当たり散らすこともなく、悩みつづけながらも、少しずつ少しずつ目的に近付いていく姿を描いた作品は、あまり多くない。
台詞と間でこの経緯を描き出した脚本がよかった。
学校裏の壁は、この映画の事実上の表舞台である。そこには、二人の活躍が少しずつ周囲に受け入れられていくのと並行して、学校や校則に対する不満が書き連ねられていく。その一言一句を、そのつどカメラで舐めるように読ませたのも、演出としてよかった。
物語は次第に、希央に対する創楽の思いやりから、淡い恋心へとシフトし、校庭に出た全生徒の前で、創楽は、希央に対する思いをぶちまける。ラスト近く、登場人物が一堂に会するこうしたシチュエーションの設定にもっていったのはよかったし、そうして整った<舞台>で、創楽が、絶叫調に希央への告白をするという演出が、それまでの創楽の躊躇や小心さの到達点として、力強い意味をもつことになった。
約二時間の尺が、やや長すぎるかと思われるが、他の生徒たちのエピソードと、創楽や中弥の活躍ぶりに刺激されてその生徒たちの考えも変わっていったというようすを盛り込んでいるので、やむを得ないかも知れない。
主演の二人は、ふだんから鍛えられた発声や滑舌もよく、若者らしい演技ができていた。脇役陣では、希央の母親役に坂井真紀、掃除のおばさん役の薬師丸ひろ子、工場の労総者役の光石研が、若者たちのドラマをしっかり支えている。
掃除のおばさんは、直接、内容に絡まないが、生徒や教師のごたごたとは離れたところにポツンといるような存在感であり、彼女を置いたことで、映画の<枠>が、ごたごた一辺倒に終始することのないよう、映像上のストッパーとしては有意義である。
漆戸丈士役の水沢林太郎は、これから伸びそうな気配がする。
肩の凝らない<学校もの>として、誠実に作られた映画だ。
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