映画 『アルキメデスの大戦』

監督・脚本・VFX:山崎貴、原作:三田紀房『アルキメデスの大戦』、撮影:柴崎幸三、編集:宮島竜治、音楽:佐藤直紀、主演:菅田将暉、2019年、130分、配給:東宝。

 

1933年(昭和8年)、海軍では新造艦をめぐる議論が盛んになってきていた。

永野修身中将(國村隼)と山本五十六少将(舘ひろし)は、いずれは航空機での戦いの時代が来るとし、航空母艦の必要性を説き、藤岡喜男少将(山崎一)の設計した空母を提案する。一方、大艦巨砲主義の信念をもつ嶋田繁太郎少将(橋爪功)は、平山忠道技術中将(田中泯)が作った巨大戦艦の模型を見て、大いに感嘆する。こうして、海軍首脳部では、航空主兵主義派と大艦巨砲主義派との対立が鮮明になっていた。これを決定する大角大臣(小林克也)は、平山中将の案に傾いていた。なぜなら、山本少将側の提案する航空母艦より、平山中将の巨大戦艦のほうが、予算として安かったからである。最終決定は、その二週間後となった。

料亭に席を移し、永野と山本、藤岡は対策を練るが、平山中将の案は、巨大戦艦の建造費にしては異様に安いことがわかる。低い見積もりを出して、自分たちの主張を通そうとしているに違いない、と睨んだ三人は、それさえ証明できれば、平山案を廃案に持ち込めると確信するが、証明のしようがなかった。

芸者を呼ぼうとすると、女将が言うには、今夜はすべての芸者が貸し切りになっているとのことだった。芸者を少し回してもらおうと交渉しに芸者の集まる座敷に行くと、芸者のなかには、ひとりの学生しかいなかった。その学生は櫂直(菅田将暉)と言い、東京帝国大学の数学科にいた学生で、計算能力が高いことを知る。櫂は、造船業で栄える尾崎財閥家の令嬢、尾崎鏡子(浜辺美波)の家庭教師もしていた。

山本は、平山案が安く見積もられたからくりを暴くべく、数学の得意な櫂に、ワケを話し、協力してもらうよう依頼する。・・・・・・


タイトル前に、1945年(昭和20年)4月7日、戦艦大和が米軍から攻撃を受け、沈没するようすが描写される。ストーリーは、そこから12年遡ったときからのスタートとなる。


同じ監督による『永遠の0』(2013年)は、ほとんど評価できなかったので、あまり期待せず見たが、本作品は満点である。ジャンルとしては、あのとき同様、大東亜戦争にかかわるものだが、監督が脚本を兼ねている点でも、また、撮影・編集・音楽などスタッフの多くが同じメンバーでも、これほどの違いになるとは驚きだ。元々、演出力がないと定評のある監督だが、この間に成長したか、それとも、小説が原作であるより、漫画が原作のほうが力を発揮しやすかったのか、あるいは、原作自体のおもしろさが、こちらのほうが上であったのか。原作は読んでないが、おそらく、原作がおもしろいのだろう。


ストーリー上、航空主兵主義派と大艦巨砲主義派、初めの頃の櫂とその部下となる田中正二郎(柄本佑)、海軍省とそこをお払い箱になった大里清(笑福亭鶴瓶)というように、対立軸が鮮明で、展開にメリハリをもたせることができている。二週間後の会議までに、櫂と田中は平山案のからくりを見破らなければならず、最後まで時間との勝負を持ち込んだ構成もいい。


結果的に、会議には間に合い、櫂は数式を展開して平山案の偽装を見破るが、そこで話を終わらせず、平山の真意が明かされ、さらに、櫂が新造艦の弱点を見抜いたことで、平山が、新造艦の巨大な模型の置かれたへやに櫂を招き、日本と「大和」に対する自身の考えを櫂に披露するところも、演出・カメラワークともによかった。あまり、妙な付け加えをすると、それまでの流れが台無しになるが、本作品では、ストーリー上、きちんと締めるカタチになっている。

戦艦大和が建造されると、甲板には、櫂の姿もあった。


エンドロールの終わりに、この映画は、史実にもとづいてつくられたフィクションである、と出る。

映画として、脚本、カメラワーク、編集、俳優、そして特に演出がよく効き、メリハリをもつ130分となり、エンタメ性も充分に確保された娯楽作品となった。

ベテラン陣が確かな演技を見せてくれているほか、菅田将暉はいつものようにうまく、加えて、柄本佑の演技が光っていることも特筆しておきたい。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。