映画 『銃』

監督:武正晴、 企画・製作:奥山和由、原作:中村文則『銃』(河出書房新社)、脚本:武正晴 、宍戸英紀、撮影:西村博光、照明:志村昭裕、編集:細野優理子、美術:新田隆之、音楽:海田庄吾、主演:村上虹郎、2018年、97分、モノクロ(ラストのみカラー)、R15+、配給:KATSU-do、太秦。

 

大学生の西川トオル(村上虹郎)は、あるどしゃ降りの夜、河原で、死んでいる男を発見したが、その脇には、一丁の拳銃が落ちていた。西川はそれを拾い、自分が一人住むアパートに持ち帰り、丁寧に磨き上げ、箱の中にしまう。

やがて、友人との話や、セックスフレンドとのセックス、恋人候補の女子とのやりとりなど日常的な生活が続いていくが、「銃を持っている」という考えが、次第に西川を支配していく。・・・・・・


久しぶりに、みごとな作品に出会った。

新宿の紀伊国屋書店・別館で、DVDのパッケージを見ているうち、これは見てみようと購入した。大当たりであった。


ラストの数分以外は、そこまで全編白黒だ。カラーの時代にモノクロというのは、ヒッチコックの『サイコ』(1960年)などと同様、それなりの意図があるからだ。それは、作品に、文字通り、サイコサスペンスの要素をもたせようとするときが多い。


そのへんにいくらでもいそうな学生・西川は、拳銃を持ったときから、拳銃についてのさまざまな想像に浸る。ネコがもがき苦しんでいるのを見て、早く楽にしてあげようと、初めて拳銃を発射させ、ネコを殺す。その後、常に騒々しく、男児を虐待しているような隣室の若い母親を殺そうと思うまでになる。


日常の学生生活や、女友達とのセックスライフなどと同時並行で、拳銃を持っていることから生まれる妄想は、西川のモノローグで語られる。現実の会話とモノローグをと巧みに組み合わせているシーンなどもあり、演出がうまい。

セックスフレンド(日南響子)は名前が出ず、西川のスマホには「トースト女」と登録され、恋人候補の女子(広瀬アリス)も、ヨシカワユウコという名前は、再会したときに数回出てくるだけだ。病気療養中の実の父なども同様だ。

これらは、本作品の軸が、拳銃を持っ(てしまっ)た西川の心理にあり、その「拳銃を持っている」ことによって膨張する西川の想像力にあるからだろう。


西川の心理ドラマではあるが、ごそごそした台詞回しやモノローグでなく、現代風のあっさりしたツイートのような物言いにしたところが功を奏した。

西川主演であるから、村上虹郎がほとんどのシーンに登場するのは当然だが、村上のキャスティングは大成功と言える。


現在、若手男子で演技力のある俳優といえば、菅田将暉(26歳)と神木隆之介(26歳)、池松壮亮(29歳)くらいしか思い浮かばないが、村上虹郎(22歳)も加えよう。

虹郎は、他の作品でも見たことはあるのだが、こうしたサスペンス調の心理ドラマの、しかも主役を演じ切った点は高く評価したい。

無理に背伸びをせず、ふつうの若者の役を演じるのだが、いろいろなベテラン俳優の言葉を総合すると、日常の演技ほど難しいものはない、という。この点、彼は、ほとんど等身大の若者を素直に演じており、べらべらと台詞の多い役ではないので、それだけに、表情や立ち姿だけで演じなければならないシーンも多いのだが、これをみごとに成し遂げている。


この役は、虹郎にしかできなかったと思われる。映画を観終わってみて、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)の主役・前田が、神木隆之介以外には考えられないのと同じように、本作品の主役・西川は、虹郎以外にできなかったでえあろう。虹郎のややエキゾチックな目や口元のつくり、繊細にして現実に対しては冷めたような表情が、本作品にぴったりだ。これらによる演技は、演出の力にもよるだろうが、それに応えうる虹郎の演技力は、まだ限りない潜在力を秘めていることを知らしめてくれる。


いよいよラストに向けて、待ち伏せして隣の若い母親を殺すかと思いきや、それはできず、そこで、もう殺しは諦めたかと思いきや、ラストで、全く見ず知らずのマナーの悪い乗客(村上淳、虹郎の実父)を殺してしまう。ここでようやく、モノクロからカラーとなる。

こうして、西川は、想像していたことを、思わず現実としてしまうのだが、その場で自分も死のうと弾丸を装填しようとするが、血のりで手が滑ってそれができない、・・・そして、そのまま、エンドロールとなる。この終わりかたもよかった。


全体的に、シーンからシーンへのカットがうまい。編集がうまいのだ。

また、ラスト近くには、象徴的なシーンもある。教室から出てきた西川の横を、階段を下りてきたユウコが通り過ぎ、2~3メートル離れた位置で振り向き、西川に気持ちを伝えるシーンだ。数カットで、西川にセリフはない。

刑事(リリー・フランキー)が訪ねてきて、その後、喫茶店に移動し、西川を相手に会話する。48分~1時間4分ころのこのシーンは、もうひとつの圧巻だ。


シーンごとのBGMや音楽も、ストーリーの雰囲気に効果を発揮している。幼いころの西川が聴くクラシック音楽、西川がへやでいつも聴く曲なども、効果的だ。


邦画にこうした優れた作品が眠っている。知らないことは恐ろしいことだ。今日は出歩いてよかった。

皆さんもぜひ、ご覧ください。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。