監督:若松節朗、製作総指揮:角川歴彦(かどかわ・つぐひこ)、原作:山崎豊子、脚本:西岡琢也、撮影:長沼六男、編集:新井孝夫、音楽:住友紀人、主演:渡辺謙、2009年、202分、東宝。
間に10分の休憩が入る長編である。
国民航空ジャンボ機墜落事故とその後の展開を、恩地元(渡辺謙)の人生の歩みや、国航(国民航空)の社内人事、国航再建に向けての政治などをも織り交ぜて描く。
日航ジャンボ機墜落事故に材を取っている。
恩地を中心に、現在と過去が、交互に描かれていく。
恩地は、今や、遺族の担当となり東奔西走する立場であるが、昭和40代はじめころは、組合の委員長であり、それが原因で、海外僻地の支店に飛ばされる。飛行の安全を願う恩地とは異なり、副委員長だった行天四郎(三浦友和)は、幹部にそそのかされ、汚れた仕事までして出世街道をひた走ることになる。
恩地の海外赴任に伴い振り回される家族や、恩地、行天双方に愛着を示すスチュワーデスの存在をも描く。
山崎豊子の社会派小説は、善なる正義を貫く信念の男が副主人公として登場し、主役はいわゆる偽善者であり、長いものにまかれるタイプだ。この両者が対峙する。
この作品における恩地は、『白い巨塔』の里見助教授であり、『華麗なる一族』の万俵鉄平である。片や、行天は、財前五郎であり、万俵大介であろう。
いろいろと細部にまで書き及んだ原作を、たとえ長編とはいえ、これだけの話にまとめた脚本には頭が下がる。
しかし他作品同様、恩地の行き方という、一本筋が通っていることで、最後までじっくり観ることができる。
いかにも角川映画らしい、カネに糸目をつけない贅沢な仕上がりは歓迎だが、映画であるからには、もう少し映像の楽しみがほしかった。
飛行機の機内、コックピットが出てくるが、もちろん日航は撮影を拒否したので、セットを作らざるを得ず、飛行機の離発着のシーンもすべてCGに依っている。
国民航空の文字を機体に入れねばならないから、おのずからCGに頼らざるを得ないが、そのへんの処理がワンパターンで惜しい。
内容柄、登場人物の多いのも気になる。観ていて混乱はしないが、後半での政治家と官僚、国民航空の絡まるあたりは、描き切るか、思い切ってカットしてもよかった。
原作がそうなら仕方ないが、そのあたりは、ややもすると、恩地の生き様や信念から離れて、国民航空の再建とそのさなかに起きるダーティな部分であり、話が空中分解しているとみられてもしかたない。
それでも、最後は、恩地の話に戻し、アフリカの雄大な太陽を映して終わっている。
いずれにしても、最後に注意書きが出るように、事故で亡くなった方々に冥福を捧げんとする内容であり、それに伴い、国民航空の旧態依然とした実態が暴き出された点は、山崎豊子の手腕にに負うところが大きい。
恩地のような使命感のある社員がもっといたなら、と思ってしまうストーリーだ。
行天は、いわば悪の象徴であるが、三浦本人が、初めて俳優らしい役を演じた作品だと思う。
ちなみに、靖国神社が映るシーンがある。
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