映画 『天使』

監督:パトリック・ボカノウスキー、映像・特殊効果:パトリック・ボカノウスキー、撮影:フィリップ・ラヴァレツト、装置・ミニチュア:クリスチヤン・ダニノス、パトリック・ポカノウスキー、仮面:クリスチャン・ダニノス、音楽:ミシェール・ボカノウスキー、主演:モーリス・バケ、ほか、1982年、フランス映画、74分、原題:L'ANGE。

 DVDでは、『海辺にて』(1992年、14分)が同時収録されている。


かつて、今はないシネヴィヴァン六本木という映画館で観た作品。『ラ・パロマ』を観たのもここだった。 


天使といっても内容とは全く関係がなく、このタイトルと中身を結びつけるのは観客の役目だ。

ストーリーはなく、セリフもなく、説明もなく、ただ映像と音楽だけの映画。映画というより、まさに映像。当時、カンヌ映画祭でも注目された作品だ。

 

明確な物語はなく、光と影による幻想的な映像に、弦楽器の音をかぶせた七つのシークエンスでできている。

ぶら下がった人形をサーベルで切りつける男、ミルク壺を運ぶ女と落ちて壊れる壺、入浴する男など、それぞれの映像が、映像技術を駆使した処理によって、何度も反復され再生される。 


光と影を使った映像には違いないが、場面による関連性はなく、継ぎ目には、暗い階段に光が当たるようなアニメーションが使われる。

登場人物はすべて人間の顔に似せた仮面をつけているが、どれも大変不気味だ。映像のほとんどにかぶさる音楽も、メロディらしきものはなく、ヴァイオリンやチェロなどが不気味な音を奏でる。

 

映像も反復するなら音楽も反復するのに、ストーリーがなくメロディもない。ただひたすら映像と音、さらに言えば、光と音の世界に、観客は閉じ込められてしまう。


『海辺にて』もやはり同時上映され、こちらは13分。1から4に区切られているが、海辺の海水浴客たちを、シルエットを処理した映像でとらえている。 


この映画が置いてあるとしたら、相当品揃えのよいレンタル屋だろう。

この実験的映像をどうみるか、…さまざまな判断が生まれそうだ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。