映画 『π(パイ)』

監督・脚本:ダーレン・アロノフスキー、撮影:マシュー・リバティーク、編集:オレン・サーチ、音楽:クリント・マンセル、主演:ショーン・ガレット、1998年、84分、モノクロ、原題:π


監督は、ハーバード大卒という珍しいキャリアをもつダーレン・アロノフスキー。『ブラック・スワン』(2010年)で有名になった。

アイデアがおもしろい。異色なサスペンスだが、徐々にサイコ調になっていくところがよい。


薄汚い自宅アパートで数学の研究をしているマックス(ショーン・ガレット)は、この世の中はすべて数式に分析可能で、必ず何らかの法則があるはず、と独自の考えをもっている。

その法則さえつかめれば、株式市場の予測も可能と考え、日夜研究に勤しんでいるのだが。・・・・・・


設定場所が、いかにもありそうで興味深い。数学に没頭しすぎて、社会性が欠如し、用心深く非社交的である。そのアパートもチャウナタウンにある。 小さいときから薬漬けで、不意に妄想に襲われることも多い。

結局ラストは、少女に笑顔を見せ、三桁同士のかけ算の暗算はできないという、普通の人になり、マックス自身もほっとしたことだろう。


何より映像が目まぐるしいので、寝起きなどには見ないほうがよい。

アップや接写も多く、早いカットや手持ちカメラの揺れは、カラーでも疲れるのに、白黒で、露出を多くしたりザラついた画面でそれをやられると、なおさら目がチカチカする。

テクノミュージックと相乗効果を狙う新機軸は、このころの一種のはやりだったと思うが、勘弁してもらいたい。


やはり映画は、映像と間(ま)で描いてくれたほうがありがたい。

エンドロールに、普通は cast とするところを、filmmakers とするあたりもこの映画らしい。


何ヵ所か、大事なところで、蟻が出てくる。蟻はそれぞれのシーンで、マックスの心理の転換を象徴しているようだ。

小難しい数学の話も出てくるので、勉強になり、得をした感じもする。囲碁が出てきたのにもびっくりだ。


キーワードは<脳みそ>としておこう。



日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。