監督:アルフレッド・ヒッチコック、脚本:アルフレッド・ヒッチコック、エリオット・スタナード、原作:マリー・ベロック=ローンズ、製作:マイケル・バルコン、撮影:バロン・ヴェンティミリア、美術:C.ウィルフレッド・アーノルド、バートラム・エヴァンズ、編集:イヴォール・モンタギュー、1927年(日本公開は2017年)、80分(アメリカヴァージョン、初公開時は105分)、サイレント、イギリス映画、原題:The Lodger:A Story of the London Fog
ヒッチコック27歳のときの作品で、監督作品としては3作目。
19世紀末のロンドン、市内で金髪の若い女性ばかりが惨殺されるという事件が発生しており、最近も7人目の犠牲者が出た。犯人は被害者の衣服に、毎度必ず正三角形の紙片を残していく。そこには、avenger (復讐者、字幕では復讐鬼)と書かれていた。復讐の鬼犯人を目撃した女性の話によると、マフラーで顔の下半分を隠していたという。
そんななか、一人の若い男(アイヴァー・ノヴェロ)が下宿屋にやってきて部屋を借りたいという。夫人(マリー・オールト)と折り合いがつき、その男は下宿することになる。ところが、そのへやのなかに飾ってある数枚の若い女性の肖像画が気色悪いと言うので、片付けることにする。この下宿屋には、舞台で女優をしているデイジー(ジューン)という一人娘がいて、デイジーが帰宅すると、家ぐるみで親しい刑事のジョー(マルコム・キーン)も来ていた。ジョーはデイジーに気があるようだ。
家族は、初めて男が訪ねてきたとき、口元をマフラーで覆っていたことなどからして、この下宿人の男は、連続女性殺人事件の犯人ではないかと疑い出す。一方デイジーは、そんなことはありえないとし、男のへやに行くなどしており、男とデイジーは互いに惹かれ合っていく。デイジーの両親は、男が疑わしいこともあり、デイジーが親しくするのを快く思っていなかった。夫人は、男が外出中にこっそり男のへやに入り、疑わしいものがないか見て回るが、棚の一部に鍵がかかっていることを知った。
そこにまた、殺人事件が起きる。・・・・・・
後のヒッチコック作品に比べるのは酷であるが、比較してしまえば、まだほんのエチュードという感じは否めない。おまけにサイレント映画でもあり、会話や音の楽しみはない。サイレントではこうするのが当時の慣習だったのかわからないが、冒頭からラストまで、ずっとクラシックの名曲、それも音響の大きな交響曲やオペラの序曲などが鳴りっぱなしで、内容と不釣り合いだ。
サイレントなので、ところどころ会話が文字で示されるだけだが、それだけに却って、俳優の表情の演技やメイクがモノを言うことになる。
いよいよ逮捕令状が執行され、男のへやはジョーとその部下によって家宅捜索される。鍵のかかっているところからは大きな鞄が見つかり、中からは女の写真が出てきた。しかし男が言うには、それは男の妹とのことだった。男は妹が殺され、それにより母も倒れてしまい、母との約束で、何が何でも犯人を探し出すことにし、犯行現場に近いこの下宿を借りて、ここを根城に行動するつもりだったのだ。
それでもジョーは男に手錠をかけ逮捕したが、下宿を出る寸前、男は一目散に逃げてしまう。そのとき「街灯の下で」とデイジーに囁いて行ったので、デートをした街灯の下で待っているとデイジーがくる。外套で手錠を隠し、バーに行くと、他の客から怪しまれ、二人が店を出るのと入れ替わりに入ってきたジョーに、いま二人は出て行った、と告げる。しかしそのときジョーはカウンターで警察本部と電話をしており、真犯人は逮捕されたと知る。店にいた大勢の客は、逃げた男のほうが犯人だと思い込んだから、二人を追いかけ、ついに男を追い詰める。群衆に袋叩きにされるなかジョーが追いつき、真犯人は捕まったことを群衆に伝える。
男が自室で地図を広げ、事件の起きた場所に印をつけるあたり、この下宿人が本当に犯人かと思わせる演出が効いている。これより前、なかなか犯人逮捕のできない警察で、捜査官が、同じような地図に、事件現場は一定の方向をもっており、次はアノ下宿があるあたりだろう、と言っている。
結局、犯人が誰かはわからぬまま、男とデイジーは結ばれることになり、デイジー夫婦も二人を祝福して終わる。
本作品は短いヴァージョンなので、105分の初公開版では、さらにはっきりした結末が用意されていたのかも知れない。
ヒッチコックの初期作品として観ておくといいだろう。
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