映画 『39 刑法第三十九条』

監督:森田芳光、脚本:大森寿美男、原作:永井泰宇、製作:幸甫、撮影:高瀬比呂志、照明:小野晃、美術:小澤秀高、編集:田中愼二、音楽:佐橋俊彦、主演:鈴木京香、堤真一、1999年、133分、配給:松竹


妊婦とその夫が刃物で惨殺され、劇場で『証言台』という一人芝居を演じていた劇団員の柴田真樹(堤真一)が逮捕された。柴田の国選弁護人となった弁護士・長村時雨(樹木希林)は、接見中、柴田の表情や態度が急変するのを目の当たりにし、法廷でも突然、芝居中の台詞と似たような言葉を発声したため、裁判所に精神鑑定を要求した。鑑定人は、大学の精神科の教授・藤代(杉浦直樹)と、藤代の教え子の助手・小川香深(かふか、鈴木京香)であった。

実際に、二人が柴田と向き合って質疑応答をすると、突然表情が変わり、二人に飛びかかってきた。藤代は鑑定の結論として、柴田を二重人格だとしたが、小川は検察官・草間(江守徹)に相談をもちかけ、柴田は詐病(さびょう)、つまり異常者のふりをしていると判断し、再鑑定を行なうつもりだ、と告げる。・・・・・・


監督は、『家族ゲーム』(1983年)で有名となった森田芳光で、サスペンスタッチの映画は本作品が初。撮影は、『スーパーの女』(1996年)、『失楽園』(1997年)などの高瀬比呂志、


刑法第三十九条には、「第一項 心神喪失者の行為は、罰しない。」「第2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」と規定されている。冒頭にもこの条文が示される。

本作品では、柴田が別人になりすまし、その演技力によって心神喪失または心神耗弱を狙ったが、小川の再鑑定により、すべて詐病であり、犯行当時、責任能力はあり、よって刑罰を科すべきである、という結論を示唆し、映画は終わる。

この映画公開前の1995年(平成7年5月)の改正で、刑法は、漢字片仮名混じりの歴史的仮名遣いから、漢字平仮名の現代仮名遣いに改められているが、冒頭では片仮名交じりの旧表記が使われている。


本作品は、内容柄、意図的にそうしたと思われるカメラワークに注目すべきだろう。

冒頭の雨のシーンから、全編グレー基調の暗い画面が多い。法廷や鑑定室は無論、住まいなどへやの中であっても、外からの光などは入れず、あたかも隔離された空間のようなつくりをしている。銀残しにより、さらに明るい部分との差をつけるようにしている。カメラでは、波打ち際やマンションを傾けて撮る、木立の中を歩くシーンなど左右に早く流した短いカットをつなげるなど、不安感・焦燥感を表わす露骨な演出を見せている。


細やかに練られたストーリー展開と、巧みな撮影・編集により、シリアス一辺倒に徹した作品となっている。柴田の<芝居>は少しずつ化けの皮が剝がされていくが、その本筋とは別に、小川とその母(吉田日出子)のやりとりも、小川のキャラクター描写に寄与している。


江守徹、樹木希林、岸部一徳、吉田日出子らベテラン勢の演技も見ものだ。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。