映画 『マリグナント 狂暴な悪夢』

監督:ジェームズ・ワン、脚本:アケラ・クーパー、原案:ジェームズ・ワン、イングリット・ビス、アケラ・クーパー、撮影:マイケル・バージェス、編集:カーク・モッリ、音楽:ジョセフ・ビシャラ、主演:アナベル・ウォーリス、2021年、112分、配給:ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ、原題:Malignant、R18+


身ごもったマディソン・ミッチェル(アナベル・ウォーリス)が帰宅すると、デレク(ジェイク・アベル)とまたも口論となる。マディソンはすでに3回も流産し、今回もそうなるかも知らないとデレクがなじったからである。デレクは、ついマディソンに手を上げ、彼女は壁に後頭部を打ちつけ、そこから出血してしまった。

そんなこともあり、夜は居間のソファでひとり寝ていたデレクだが、物音がして起きると、奇怪な現象を目の当たりにしたうえ、何者かにいきなり撲殺されてしまう。・・・・・・


ホラーの部類にカテゴライズされる作品としては、よくできているほうだ。タイトルロールの前に、1993年当時のシミオン研究所病院での奇怪な出来事があり、本編は現在とその二週間後が流されるが、冒頭の過去の出来事が本編に強く効いている。ストーリー全体の流れも、前半まではやや退屈するが、このままでは駄作に終わろうかと思いきや、後半からラストに向け、話の上でも映像の上でも、盛り上がりとメリハリが効いてエンタメ性も充分な作品となった。ラスト近く、マディソンの同一体分身とも言えるガブリエルが、警察署内で大立ち回りを演ずるシーンは圧巻だ。


奇形性双生児という発想がおもしろいし、それを具体化した後半からの映像は見もので、ロブ・ボッティンのつくるモンスターなどとはまた別の意味で、薄気味悪いクリーチャーを提供してくれている。Malignant というタイトルは、malignant tumor(悪性腫瘍)からとられたものだろうが、台詞としては cancer が使われている。


ホラーにつきものの突っ込みどころの多さはこの作品にもあるが、本筋がしっかりし牽引力もあるので、ほとんど気にならない。主な登場人物は他に、マディソンの妹シドニー(マディー・ハッソン)、刑事のケコア・ショウ(ジョージ・ヤング)とレジーナ(ミコレ・ブリアナ・ホワイト)、マディソンが少女のころに入院患者として受け入れたシミオン病院の外科医フローレンス・ウィーバー博士(ジャクリーン・マッケンジー)で、これらは演技力に問題があるが、こうした映画には著名な俳優は集められず、しかも後半にアクションもあることから、多少は目をつむらないといけないだろう。


映画として細かいところにも気を遣っている。無論そうしなければならない理由もある。二件目の殺人=フィールズ博士が殺される件では、彼の住むマンションの隣ビル「シルヴァーカップ」のネオンを映しており、それをマディソンが刑事二人に話し、彼の自宅に乗り込む。ガブリエルが殺人を行うとき、腕や脚の関節がどちら側にも曲がっているところも、ストーリーに適っていると同時に不気味でもある。ガブリエルが使う凶器は、初めに殺害したウィーバーが、外科医としての功労を表彰されたときのトロフィーの上半分の尖った部分である。ガブリエルにとってはウィーバーは、醜い自分の大半を切除し、残る一部をマディソンの後頭部に埋め込んだ元凶なのである。そのウィーバーの功労を示すトロフィーが以降の殺害の凶器になったのは皮肉であるが、むろん演出効果を考えてのことだろう。


カメラもよく動いており、ヴァリエーションも豊富で、編集もよい。これはホラーの場合、そのアクションシーンで不可欠であるが、そうでないシーンでも俯角・仰角を交えてうまく撮っている。マディソンの脳内にガブリエルの現在が重なるとき、CGを使って背景をぐじゃぐじゃ崩していく手法もよかった。

美術の面でも、ガブリエルの自宅のたたずまいは何となく不気味で、ヒッチコックの『サイコ』を想起させる。海岸さきの岸壁にたたずむシミオン病院の同様だ。ガブリエルが自宅内を歩くとき、真上から各部屋を横移動で撮るシーンがある。セット(と思うのだが)にカネもかかり、なかなかこうしたシーンは入れられないものだ。


ホラー・サスペンスとしては、久々に楽しめる作品であった。

「マリグナント」だけでは何のことだかわからないので、「狂暴な悪夢」と付け足したのは、日本側配給会社の<心遣い>だろう。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。