映画 『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』

監督:深川栄洋、原作:中山七里『ドクター・デスの遺産』、脚本:川崎いづみ、撮影:藤石修、編集:阿部瓦英、照明:吉角荘介、美術:瀬下幸治、音楽:吉俣良、主演:綾野剛、2020年、120分、配給:ワーナー・ブラザース映画


ひと組の医者と看護婦が、延命不可能な末期患者を、自宅に往診して安楽死させている、という事件が発生し、警察は、刑事・犬養隼人(綾野剛)と、ペアを組む高千穂明日香(北川景子)を中心に、捜査を開始する。防犯カメラの映像や、依頼した家族らから聞き取って描いた似顔絵から、ある犯人像が浮かぶ。・・・・・・


『白夜行』(2011年)の監督であるが、原作は尊重しつつも原作頼みになり過ぎるきらいがあり、本作品は映画としておもしろみがなかった。脚本が一人だが、独り立ちするには未熟なのではないか。全体に、ムダな台詞、カットのムダな引き延ばし、意味のないシーン、が多かった。

ストーリー展開として、時間配分を意識し計画的に脚本が書かれていることは、ちょうど開始60分で犯人らしき人物が判明させることからもわかるが、問題は書き方で、やはりいつも指摘するように、挿話の並列つなぎに終わってしまっているので、メリヘリがないのだ。


犯人が誰かわかってしまったので、あとは観なかった、というのは、初めからクイズを見る立場なのであるから意に介す必要もないが、映画として・映像としてという観点からはどうだろう。


100分を超える映画の場合、どうしても二本の軸が必要だ、というのが私の考えだ。両者は、対等でも、あるいは、メインとサブの関係でもよい。本作品の場合、犯人は最後に、腎臓病を患い入院している犬養の娘までも狙う。土壇場で親子は、電話越しに話すが、最後に犬養親子が正面に出てきて犯人とやり合うなら、この親子の話をサブの軸に設ければよかった。親子の歴史は全く語られていない。これは、警察が掴んだ安楽死事件の家族についても言えることだ。息子を逝かせた父親の場合、多少突っ込んだ話はあるが充分でなく、それ以外の場合、冒頭の少年の家族の場合含め、どうしてそこまでの選択をせざるを得なかったかといった家族の歴史が抜けている。そのため、それぞれの家族や、犬養親子についても、観る側としてほとんど心が揺さぶられない。


これはまた、犯人である雛森めぐみ(木村佳乃)にも言えることで、どうしてこういうことを仕出かすようになったかは語られずじまいである。犬養の娘を乗せて走る社内での犬養との電話で、本人の美学なるものは語られるが、ここに至るまでの紆余曲折は、取り調べのときにも話されない。


他に気付く点として、カメラがあまり動かないのが気になる。もっと小まめなカットをつないでいいところがあるが、それがないので横着に見える。演技への過剰な演出が気になる。特に、綾野剛について、本人のアイデアなのか監督の演出家は知る由もないが、オーバーアクション過ぎるシーンが多い。オーバーアクションができれば一流だと誤解しているのではないか。元々一定の役割でなら、それにふさわしい演技はできると思うのだが、どちらかといえば、サブの役回りのほうが適切だ。


こういうわけで、全体に、平べったく立体感がない作品になってしまった。そのなかで特定の俳優が咆哮しても、あまり意味がない。音楽も各シーンにふさわしいものばかりでもなかった。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。