監督:天野千尋、原作:ヨネダコウ、脚本:高橋ナツコ、撮影:板倉陽子、編集:辻田恵美、装飾:赤羽千恵、音楽:SWICH、主演:米原幸佑、谷口賢志、2014年、84分。
いわゆるBLストーリーである。
嶋 俊亜紀(しま・としあき、米原幸佑)はゲイであり、元々あまり口数の多いほうではない。嶋は、前のIT関連の職場を、男関係のいざこざから辞め、新たな職場に移った。今度もITの仕事であり、嶋の属する課の課長は、外川陽介(とがわ・ようすけ、谷口賢志)という男であった。嶋が外川に初めて会ったのは、転勤して初出勤の日のエレベーターの中でであり、そのとき外川は二日酔いでもあり、酒臭かった。職場のデスクでも、本来禁煙であるにもかかわらず、外川はマルボロを吸っていた。
そんな外川であったが、嶋の歓迎会などを通じ、嶋は外川の気遣いややさしさに触れ、徐々に心を開き、ある晩、外川に腕を引かれ外川の住まいに連れて行かれ、体の関係をもってしまう。・・・・・・
原作から、スタッフのほとんどが女性によってつくられたボーイズラブストーリー。
BLをテーマにした映画は初めて見た。外川に惹かれながら、一歩を踏み出せないでいる嶋の気持ちの揺れや、外川の過去の出来事などを知ってからの嶋の自分なりの外川に対するけじめや、またそれに対する外川の気持ちの発露など、あまり音楽を入れない静かな映像で、丹念に描き出している。
男子スタッフ中心で作ったらこういう作品になるのか、それとも、ならないのか、女性スタッフを中心に作れば、いつもこういう作品になるのか、それとも、ならないのか、これは不毛は議論であろう。一作一作、映像作品として観て、そのつど、その映画に対する評価をしていけばいいと思う。
本作品のすぐれた点は、やはり、基本に忠実な映像の美しさであろう。カメラワークに、突飛なものはないのだが、ローアングル、定点長回しが多く、安心して観ていられると同時に、観ている側は、人物の台詞から心理へと、自然に誘(いざな)われる。人物を遠くに置いて撮る方法も、効果的だ。カメラのフレーム如何を、よく心得ている撮影だ。シーンを畳みかけていくモンタージュも、その効果をよくわかって撮られており、内容に沿いつつ功を奏している。
フレームに収める場所もよかった。会社内ではあっても、その建物全体や他の人間をほとんど映すことなく、登場人物だけのために用意されている。踊り場の喫煙所、階段がそうで、ここでもカメラは動かず、定点で撮られている。会社以外の場所も、居酒屋や嶋のへやの中、外川の住まいの中など、カメラはあまり動かない。
京都への外川の転勤で、嶋は自らの心に無理にけじめをつけようとするが、外川はそんな嶋を、より大きな心で受け入れ、嶋が現実にどうするかは別として、嶋と外川は、しばらくはカップルとして生きていくだろうことを暗示して、映画は終わる。
現実に、働いている者同士のゲイ、あるいは、同じ職場にいるゲイの人たちに、こうしたことが実際にあるかどうかは別だ。おそらく、実際にもあるのだろう。だたそのなりゆきがどうなるかは、わからない。少なくとも、本作品では、不器用でおとなしく、苦しみもがく嶋という青年には、ハッピーな前途を予想させ、ほんのりとしたぬくもりを残すラストとなっている。
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