監督:木村ひさし、原作:知念実希人『仮面病棟』、脚本:知念実希人、木村ひさし、脚本協力:小山正太、江良至、撮影:葛西誉仁、照明:鈴木康介、録音:石貝洋、美術:高橋達也、編集:富永孝、音楽:やまだ豊、主演:坂口健太郎、永野芽郁、2020年、114分、配給:ワーナー・ブラザース映画
取調室で、刑事が男に、きのうのようすを細大漏らさず話してほしいと語りかけている。男の顔は映さないが、終盤、それが速水秀悟(坂口健太郎)であることがわかる。
外科医の速水は、先輩である医師、小堺司(大谷亮平)に依頼され、ひと晩だけ、小堺が勤務する田所病院の当直医を任される。その病院は、療養型病院で、入院患者は寝たきりの老人がほとんどで、案内してくれた看護師、東野(江口のりこ)によれば、ふだんは何も起きない病院とのことだった。
だが、当直の晩、近所のコンビニに、ピエロの仮面をかぶった男が押し入るという事件が発生した。しばらくすると、その犯人は、腹を撃たれた女を連れ、田所病院に来た。女はピエロの男が発砲してけがをさせたという。銃口を突きつけられるなか、速水はやむを得ず、その女、川崎瞳(永野芽郁)の腹部の手当てを行なう。案内されたときには、今は使われていないと説明された手術室は、中に入ると、現在でもすぐ使えるほどに、設備が整っていた。
傷の手当は無事に終わったが、ピエロの男は立ち去ろうとせず、翌朝、代わりの医師らが出勤するまで、病院内に籠城することになる。人質になったのは、他に、院長の田所三郎(高嶋政伸)と、看護師の佐々木香(内田理央)であった。・・・・・・
てきぱきと、前提となる説明を行ないながら、速水が当直するまでが描かれ、15分経過したところで、ようやくタイトルが出る。物語は、一旦終息し、事件は解決したかに見えるが、ラストに向けての20数分で、真実が語られる。
同じ監督の『屍人荘の殺人』(2019年)は駄作であったが、こちらは見応えがある。同じ監督で、作品の出来に大きな開きが出るとすれば、ひとえに脚本によるものだ。本作品は、原作者も脚本に加わり、脚本協力もあった。事実上、四人で書き上げたことになる。
それが功を奏してか、観る側の予想を、そのつど快く裏切って進むこととなり、ストーリー展開上、飽きることなく観続けることができる。
これは何だろう、という観る側の疑問に対して、すぐではないが、しばらくしたところで答えを与えてくれる。この間のとりかたがうまい。原作もそうであるなら、それに忠実にしたがった脚本がよかったのだろう。<謎の扉>を小出しにしていく手法も、牽引力となっている。原作者は医師でもあるので、医療上の知識もうざくない程度に散りばめられ、リアル感をもたせるのに役立っている。
カメラは、監督が、堤幸彦の元にいたことから、TVドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)や『屍人荘の殺人』同様のカメラワークをみることができるが、本作品はシリアスなミステリーであり、やや節度をもった動きとなっている。室内シーンが多いため、その場合どうするかといった対処については、監督はよくわかっているようだ。特に、個人やツーショットのアップを頻繁には入れず、常に背景を入れ込んだフレームどりをしている点に、好感をもてるし、それにより、人間に対する<カメラの思いやり>も、観てとることができる。また、仰角や離れた位置からの撮影も、たまに入れることで効果的となっており、それ以外のシーンは、ほとんどが日常目線の高さであり、かえってそれが、観る側を、内容に引き込む力となっている。
冒頭、小堺と待ち合わせした速水が、雨の中、タクシーを降り、タバコに火を点ける。ここの雨は、単純に、不吉な出来事の前ぶれという演出だろうが、傘をさしたまま取り出したタバコに雨が染みていて、手にも雨が付いている。このへんの細やかさに、これから流れる映像が象徴されているようでおもしろい。なお、このときのライターは、後で意味をもつ。
この直後、二人は、当番明けの理学療法士三人と挨拶を交わす。そのうちの一人、宮田(笠松将)の言うセリフは、何気ないが、実は、<病院の真実>を暗示しているのである。
エンドロールで、白川和子の名があったので、もしやと思って確認したら、アノ大声を出す婆さん患者の役であった。
主演、坂口健太郎の髪型は、内容に不釣り合いだ。
0コメント