映画 『ディナーラッシュ』

監督:ボブ・ジラルディ、脚本:リック・ショーネシー、ブライアン・カラタ、撮影:ティム・アイヴェス、編集:アリソン・C・ジョンソン、音楽:アレクサンダー・ラサレンコ、主演:ダニー・アイエロ、エドアルド・バレリーニ、2001年、99分、原題:Dinner Rush


舞台はニューヨークの四つ星イタリアレストラン、「ジジーノの店」。

創業者で支配人ルイス・クローパ(ダニー・アイエロ)と、その息子で料理長のウード・クローパ(エドアルド・バレリーニ)で切り盛りしている。ルイスは、今は亡き妻とともに、伝統的な家庭料理を提供する店として作り上げてきたが、ウードは芸術的な料理を日々開発し、その人気が口コミとなり、平日の今夜も、著名人を初めとする客で満席であった。ウードは、そろそろ店の経営権を譲ってほしいというが、ルイスはウードの考えに協調できず、まだ店を息子に譲るつもりはなかった。

従業員のギャンブルが原因となり、冒頭、ルイスの古くからの親友エンリコが、雪道のなか、マフィアに暗殺される。ウードの下で働く副料理長ダンカン(カーク・アセヴェド)はギャンブル狂で、マフィアに借金をなかなか返していなかったため、エンリコは身代わりとなったのだ。そのマフィア二人が、この日、予約もせぬ客として訪れ、いちばんよい席を占める。二人はルイスに、この店の経営権を明け渡せと迫る。・・・・・・


監督のボブ・ジラルディは、舞台となったレストランの実際のオーナーであり、また映画はわずか21日間で撮影されたとされる。


冒頭、エンリコが殺されるシーン以外は、ほとんどが、二階建てのレストラン内部で、厨房、テーブル席、カウンター席、地下のトイレのシーンである。

となると、カメラの動きは限定されるが、<ワンステージ>ものであるがゆえに、カットを多くし、短めな会話を多くし、切れのよい編集をして、目まぐるしく人の動く店内を描写している。


結局、マフィア二人は、ルイスの雇った<ある男>に射殺されるのであるが、その<ある男>は、土壇場でそれとわかるだけで、それまではひとりの客として映っているに過ぎない。ただ、群像劇のように、幾人かの客は定期的に、その席や会話のもようが映されるので、まさかこの男が実は…、というサプライズ感は大きい。


終盤に向け、ルイスとウードの対立も解け、同時進行で、ダンカンに対するマフィアの詰め寄りが激しくなる。進行上、エネルギーが溜められたところで、さてどうなるだろうと観ている側が期待すると、それ以上の<よき裏切り>をもって、一挙に映画は終わる。なかなか心憎い運びである。


厨房で料理が作られるシーンでは、本当の店を使っているだけに、こちらまでよい香りが届いてきそうだ。また、当の店を使っているだけに、当然ながら、事務所にある貼り紙やさまざまな設置物は、客席、狭い階段同様、セット撮影で美術が用意するのとは違い、リアルそのものだ。

ダニー・アイエロの渋い演技もよかった。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。