映画 『青いガーデニア』

監督:フリッツ・ラング、製作:アレックス・ゴットリーブ、原案:ヴェラ・キャスパリー、脚本:チャールズ・ホフマン、撮影:ニック・ムスラカ、音楽:ラオール・クロウシャー、主演:アン・バクスター、1953年、88分、原題:The Blue Gardenia


電話交換手のノーラ(アン・バクスター)は、同僚の二人、クリスタル(アン・サザーン)、サリー(ジェフ・ドネル)とルームシェアして暮らしている。ノーラ自身の誕生日、朝鮮戦争に従軍している恋人の写真を前に、恋人とあたかも向かい合って乾杯するように、グラスを並べ、シャンパンを開ける。封を切らず写真の前に置いていた相手からの手紙を読むと、現地で自分を世話してくれた看護婦と婚約する、とあった。失意のどん底にいると電話が鳴り、出てみると、職場によく来て交換手の若い女性の絵を描いている画家のハリー(レイモンド・バー)であった。普段なら断るであろうが、このときは気分を紛らせるために、自他ともに認めるプレイボーイのハリーの誘いに乗ってしまう。豪華なチャイニーズレストラン「ブルーガーデニア」で、強いカクテルを何杯も飲み、酔った勢いでノーラはハリーの家にまで行ってしまう。初めは穏やかなやりとりをしているうち、ハリーがノーラに強引に迫る。そばにあった暖炉の火掻き棒を振り上げ、壁のガラスが割れたところまで覚えているものの、ノーラは泥酔して寝てしまう。目が覚めると、脇にハリーが倒れ、自分が殺害したと思い込んだノーラは、雨の中、裸足で家に戻る。・・・・・・


実際はノーラは犯人ではなく、真犯人は別にいる。真相が明らかにされるまでのノーラの不安からの行動が、顔見知りの新聞記者キャセイ(リチャード・コンテ)、警察、姉御肌のクリスタルとのやりとりの中で進行していく。「ブルーガーデニア」では、ナット・キング・コール自らが出演し、舞台で「ブルー・ガーデニア」を歌うシーンも挿入される。ガーデニアとは、くちなしのことである。ハリーがノーラと飲んでいるとき、テーブルまで青いガーデニアを売りに来た婆さんから、一輪のガーデニアを買い、それをノーラが胸元に付ける。殺害現場にこれが落ちていたこともあり、ノーラが疑われる一因ともなっている。この一輪の花に限らず、タフタのドレス、ハイヒール、絵、電話番号など、小物関連の充実ぶりも個性的だ。


この頃のアメリカ映画は、多くが90分前後までの尺の映画で、それだけにテンポがよい。ここはもう少し伸ばしてもと思われるシーンさえある。テンポがよいだけに、ぐだぐだとした展開はなく、ストーリーが次々へと展開していくので気持ちがよいとも言える。カメラも細やかに動き、ここぞと言うときの<寄り>と<引き>の組み合わせがプロの芸を感じさせてくれる。サスペンスものでありながら、冒頭と最後のシーンでは、長調の調べが使われ、じめじめしたラストにはなっておらず、ユーモアも散りばめられている。アン・バクスターにとって『イヴの総て』(1950年)の3年後の作品であり、確実な演技力も見ものとなっている。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。