映画 『警察日記』

監督:久松静児、原作:伊藤永之介、脚本:井手俊郎、撮影:姫田真佐久、編集:近藤光雄照明:岩木保夫、録音:中村敏夫、美術:木村威夫、音楽:團伊玖磨、主演:森繁久彌、1955年、111分、モノクロ、配給:日活


随分久しぶりに観た。

森繁久彌初め、東野英治郎、殿山泰司、多々良純、三島雅夫、伊藤雄之助、十朱久雄、坪内美子、飯田蝶子、杉村春子、沢村貞子、千石規子、小田切みき、また、若い頃の三國連太郎、岩崎加根子、宍戸錠(デビュー作)、子役としての二木てるみの顔などとても懐かしい。


1952年(昭和27年)に刊行された伊藤永之介の同名小説を映画化した作品。

会津磐梯山山麓の小さな町を舞台とし、特定の主役・準主役を設けず、警察とかかわりをもたざるを得なくなる庶民の困窮ぶりを描いている。


原作は戦後7年で、本作品は戦後10年経過したころの製作であり、舞台も都心でなく、さらに子沢山の母子家庭、捨て子、万引き、無銭飲食、窃盗など、戦後の家庭事情からくる貧困がテーマとなっており、初めから意図して金品を強奪するといったような犯罪は出てこない。


警察署を中心に、グランド・ホテル形式で、さまざまな女性や人物が、警察の厄介になるというカタチで導入・紹介され、それぞれの人物にそれなりのワケがあり、その後それぞれ数回にわたりそのエピソードの続きが語られていく。そのうちのいくつかのエピソードにおける中心人物が、互いに知らぬまま、上野行きの同じ列車に乗り込む。この列車の走る姿を遠目に花川巡査(三國連太郎)が見つめ、列車が走り去るラストシーンへと続く。列車には、花川の手を焼かせた二田アヤ(岩崎加根子)が、花嫁として乗っていた。


グランド・ホテル形式をとるだけに、多少それぞれのキャラクターが鮮明にならぬまま終始している箇所があるが、それでも、ストーリーの入りからラストまで、シーン転換があるにしてもスムーズに運んでいるのは、脚本の力が大きいだろう。井手俊郎は、『めし』(1951年)、『にごりえ』(1953年)、『流れる』(1956年)、『娘・妻・母』(1960年)などの脚本・脚色を担当している。

その他、撮影の姫田真佐久、編集の近藤光雄、美術の木村威夫、音楽の團伊玖磨ら、その後の日本映画を牽引するスタッフによって出来上がった作品だ。


原作の伊藤永之介は、プロレタリア文学の出身であるが、本作品は奇妙に左翼的指向に偏ることなく、警察をかかわりをもたざるを得なくなった人々と、彼女らに対する警察官一人ひとりの丁寧で情のある対応を描き出している。役所同士の縄張り争いなども、サブテーマとして活きている。地元出身の代議士が帰郷する際の歓迎会のようす、すぐにエンコする消防車、都心と地方の町との対比など、いろいろな面を持ち合わせている映画だが、どのような場面においても人間社会のペーソスを忘れずに描き切っている。


日常性の地平

映画レビューを中心に、 身近な事柄から哲学的なテーマにいたるまで、 日常の視点で書いています。